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電波天文学で恒星と惑星の誕生に迫る
【寄稿】理工学研究科(理学野)教授 百瀬 宗武

momose.jpgのサムネイル画像Text by百瀬宗武(理工学研究科(理学野)教授)
MOMOSE Munetake1969生まれ。1998年総合研究大学院大学数物科学研究科天文科学専攻修了 博士(理学)。日本学術振興会特別研究員(国立天文台野辺山宇宙電波観測所)などを経て、2000年より茨城大学理学部助手。201010月より現職。学部時代は地球惑星科学を学び、大学院から天文学分野に転進。当時は珍しい進路選択だった。趣味は野球観戦や公園巡り。最近はステイホームの気晴らしとして、園芸を楽しんでいる。

はじめに

 私は、星や惑星がどのように形成されるのかという点を、「電波天文学」という手法を用いて研究しています。電波天文学は、宇宙物質や天体が放射する電波を捉え、これらの性質を調べる学問分野です。研究対象が身近ではない上に、五感では直接捉えられない「電波」を使うということで、敷居が高く感じられるかもしれません。ここでは私たちの研究内容をなるべく平易に解説し、この敷居を少しでも下げられればと思います。

恒星の世界

 身近なところから話を始めましょう。夜空を眺めると、星々の光が確認できます。人里離れた暗い夜空がのぞめる場所では、とりわけたくさんの星々の光が目に飛び込んできます。漠然とではありますが、私たちが広大な宇宙の中にいることを感じる瞬間です。
 夜空で見える星の大部分は、その内部で起こる熱核反応によって自ら輝く『恒星』です。太陽も恒星のひとつです。恒星は高温のガス球であり、人間の眼で見える光(可視光)を放ちます。その光が遠く離れた地球にも届くので、私たちはその方向に恒星が確かにあると認識できるのです。

星間物質と星の誕生を探る電波天文学

 宇宙には恒星だけではなく、その間に漂う物質も存在します。これを星間物質と呼びます。大部分の星間物質は我々が検出できるほどの可視光を放ちませんが、その代わり電波を放っています。実は可視光や電波の正体は、電磁波という同一の現象です。物体は一般に、その温度や組成に応じて種類が決まる何らかの電磁波を放出します。大部分の星間物質は恒星よりもはるかに低温で希薄です。これが一因となり、可視光ではなく電波で「光る」のです。
 人間の眼の機能を超えた性能で宇宙から届く電磁波を捉える装置が望遠鏡であり、電波を捉えるものを電波望遠鏡と呼びます。電波望遠鏡の登場により、星間物質の詳しい探求が可能となりました。星間物質は、恒星やその周りを回る惑星を作るための材料でもあります。星間物質が自らの万有引力によって収縮し、恒星や惑星が作られます。星間物質が放つ電波を調べると、恒星や惑星の誕生の様子に迫ることができるのです。

Figure0_momose.jpg南米チリのアタカマ砂漠で運用されている電波望遠鏡アステの前で。

私たちの起源とも関係する星の誕生

 恒星や惑星の形成は、次の二つの側面で、我々自身の起源とも密接に関係します。
 第一は、物質を構成している元素の起源です。自然界には92種類の元素が存在しますが、我々自身の肉体を作る炭素や酸素などの主要元素は、太陽の8倍以上重たい恒星(大質量星)内部で作られたものです。大質量星の形成過程には、未解明な点が多く残されています。私たちは、茨城県高萩市?日立市に設置されている2台の電波望遠鏡を用い、若い大質量星の近傍から特徴的に放たれるメタノール?メーザーという電波の観測を行うことで、その謎の解明に取り組んでいます。

Figure1_momose.jpg我々の研究室が観測運用を行っている国立天文台水沢VLBI観測所茨城局の2台の電波望遠鏡。手前が高萩アンテナ奥が日立アンテナ。

 第二は、生命を育む場である惑星の誕生です。形成途上の恒星の周りには、収縮しきれなかった星間物質が円盤状に取り残されます。これが惑星系の母胎であり、原始惑星系円盤と呼ばれます。2011年に稼働を始めた大型電波望遠鏡アルマは、原始惑星系円盤の詳しい構造を明らかにしつつあります。アルマは日本も参画する国際協力によって運用されており、私たちも国内外の共同研究者と協力して惑星誕生の謎に迫る成果を得ています。これらは、我々の故郷である地球がどう作られたのかを理解する手がかりも与えるのです。

Figure2_momose.jpeg研究室の学生が解析に取り組んでいる、アルマ望遠鏡によって得られた原始惑星系円盤に含まれる固体微粒子からの電波放射画像。中心星のごく近傍のコンパクトな円盤とそれをとりまくリング状構造の間に大きな隙間があいている。ここに、形成途上の惑星が潜んでいるのかもしれない。

宇宙を探る原動力

 以上の研究を支える最も重要な原動力は何でしょうか。私は「いかなる場面においても成り立つ普遍的な自然法則が物事を支配している点を深く認識する姿勢」だと考えています。遠い宇宙での現象も身近な世界と同じ法則が支配しているからこそ、それを理解できるのです。普遍的な法則が存在するとはいささか不思議にも感じられますが、身の回りの世界も宇宙の一部である点を踏まえれば、当然のことであるようにも思えてきます。
 我々の前に起こる様々な課題の解決や、怪しげな情報を識別する際にも、この姿勢は大きな力を与えます。私たちが依って立つべき姿勢を実感させてくれる点も、天文学の重要な意義の一つだと思っています。

※本研究活動の一部は、学長リーダーシップ経費による「平成30年度 特色研究加速イニシアティブ支援」を受けて実施されました。

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 研究者自身による寄稿や、インタビューをもとにしたストーリーをお楽しみください。
 【企画:茨城大学研究?産学官連携機構(iRIC)&広報室】