小惑星リュウグウ試料のガス分析で新たな成果
―理?橋爪光教授が参加 JAXAなどの研究チームが発表
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、「はやぶさ2」が持ち帰ってきた小惑星リュウグウ試料分析を、6つのサブチームからなる「はやぶさ2初期分析チーム」および、2つの「Phase-2キュレーション機関」にて進めています。
このたび、「はやぶさ2初期分析チーム」のうち、大学院理工学研究科(理学野)の橋爪光教授が参加する「揮発性成分分析チーム」では、「小惑星リュウグウ試料の希ガスおよび窒素同位体組成―リュウグウ揮発性成分の起源と表層物質進化―」、「『はやぶさ2』ミッションによる世界初の小惑星からのガスサンプル:リュウグウからのたまて箱」と題した2つの研究成果を発表しました。
詳しくはプレスリリース(JAXAホームページ)をご覧ください。
● 小惑星リュウグウ試料の希ガスおよび窒素同位体組成
● 「はやぶさ2」ミッションによる世界初の小惑星からのガスサンプル
小惑星リュウグウ試料の初期分析について
小惑星探査機「はやぶさ2」により2020年12月6日に地球へ帰還したリュウグウ試料は、JAXA宇宙科学研究所に設置された施設において、初期記載(Phase-1キュレーション)が行われました。試料の一部が、6つのサブチームからなる「はやぶさ2初期分析チーム」と2つの「Phase-2キュレーション機関」へ分配されました。初期分析チームは「はやぶさ2」の科学目的達成のために専門サブチームが分担して、計画された高精度分析により、試料の多面的価値を明らかにします。Phase-2キュレーション機関はそれぞれの特徴である総合分析に基づき、個々の「はやぶさ2粒子」カタログを作成すると同時に、粒子の特性に応じた測定?分析により、「はやぶさ2粒子」がもつ潜在的価値を明らかにしていきます。
小惑星リュウグウ試料の希ガスおよび窒素同位体組成―リュウグウ揮発性成分の起源と表層物質進化
概要
小惑星探査機「はやぶさ2」が地球に持ち帰った近地球軌道小惑星リュウグウの表層および地下物質試料の希ガスと窒素の同位体組成を測定しました。リュウグウには太陽系形成時の希ガスがふくまれており、その量はこれまで報告されているどの隕石よりも多いことがわかりました。窒素同位体組成は試料ごとに異なっており、多様な窒素含有物質が今もリュウグウ試料には保存されていることがわかりました。太陽系形成時の始原的ガス以外にも、銀河宇宙線によって生成された希ガスと太陽風起源の2種類の希ガスも含まれていました。多くのリュウグウ試料に含まれる太陽風起源ガスは僅かな量でした。第1回タッチダウン回収試料を10個、第2回タッチダウン回収試料を6個分析しましたが、多くの試料は太陽風希ガスをあまり含んでおらず、2試料だけが現在の軌道でそれぞれ3500年間、250年間の照射に相当する太陽風を含んでいました。太陽風は天体の最表層の物質にしか打ち込まれないため、これらの試料は天体最表層にそれぞれ3500年間、250年間、存在していたことを意味しています。第2回タッチダウン試料は人工クレーター付近から回収しており、地下物質を含んでいると期待されています。第2回タッチダウン試料には太陽風希ガスがあまり含まれていないことから、深さ1-2m程度の地下物質はあまり撹拌されていないことがわかりました。また、銀河宇宙線起源ネオン量から、リュウグウ試料の銀河宇宙線照射期間は約500万年であることがわかりました。リュウグウ表面のクレーターには、近地球軌道での衝突で作られたと仮定して計算される年代(200万年から800万年)と、小惑星帯での頻繁な衝突で作られたと仮定して計算される年代(10万年から30万年)が提案されてきました。希ガス分析の結果から得られた銀河宇宙線照射期間は前者の年代に一致しており、リュウグウは約500万年前に小惑星軌道から、天体表層への隕石衝突が少ない近地球軌道に移動したと考えられます。
また、リュウグウ試料を真空装置内で100℃に加熱した際、100万年の照射期間に相当する銀河宇宙線起源のガスが検出されました。このことは、過去100万年間はリュウグウ表層物質が100℃以上の高温を経験していないことを意味します。リュウグウ表層の中緯度域には可視分光で赤く見える物質が見つかっています。赤い物質はリュウグウが太陽に一時期近づいたために強い加熱を受けたためにできたという可能性がこれまでの研究で示唆されています。もし、赤化の原因が太陽近傍での加熱であるなら、それは100万年以上前の出来事であったことになります(図)。
(図)リュウグウの進化図。1.リュウグウ母天体の形成と先太陽および始原的ガスの獲得。2.リュウグウ母天体での水質変質(約45.6億年前)。3.母天体破片の集積によるリュウグウ形成。4.近地球軌道への移動(約500万年前)。5.加熱による赤化(約100万年以上前)。6.現在のリュウグウ。
発表機関
宇宙航空研究開発機構(JAXA)、九州大学、茨城大学、東京工業大学、海洋研究開発機構、北海道大学、東北大学、京都大学、広島大学、東京大学
論文情報
- 論文タイトル:Noble gases and nitrogen in samples of asteroid Ryugu record its volatile sources and recent surface evolution
- 雑誌名:Science
- 著者名:※論文やプレスリリースをご参照ください。
- DOI:10.1126/science.abo0431
「はやぶさ2」ミッションによる世界初の小惑星からのガスサンプル:リュウグウからのたまて箱
概要
小惑星探査機「はやぶさ2」が地球に持ち帰ったサンプルコンテナ内のガス成分の質量分析およびガス採取を行いました。カプセル回収から30時間後に、オーストラリア現地でガス採取?分析装置(GAEA)を用いてコンテナ内のガス成分の抽出?採取?質量分析を行いました。その後、採取したガスを国内外の研究機関に配布し、ガス成分の精密な同位体分析を行いました。その結果、コンテナガスは太陽風と地球大気の混合であることが判明しました。コンテナ内のヘリウム量から計算したところ、リュウグウ試料の表面が剥離した際に遊離した太陽風がコンテナガスとして含まれている可能性が最も高いことがわかりました。近地球軌道小惑星からガス成分を気体のまま地球に持ち帰ったのは、「はやぶさ2」ミッションが世界で初めてです。
GAEA搭載の質量分析装置によるコンテナガスの質量分析結果(青色実線)。 横軸は質量(m)とイオン価数(z)の比(m/z)、縦軸はm/zに相当するイオンの質量分析装置での電気信号強度(任意スケール)。装置由来のガス(灰色点線)や地球大気標準ガス(赤丸)とくらべてm/zが4のガス(ヘリウム)が過剰に存在する。
発表機関
宇宙航空研究開発機構(JAXA)、九州大学、茨城大学、東京工業大学、海洋研究開発機構、北海道大学、東北大学、京都大学、広島大学、東京大学
論文情報
- 論文タイトル:First asteroid gas sample delivered by the Hayabusa2 mission:
A treasure box from Ryugu - 雑誌名:Science Advances
- 著者名:※論文やプレスリリースをご参照ください。
- DOI:10.1126/sciadv.abo7239