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緑藻から脂質と色素を同時に高効率生産する培養技術を開発
有用物質生産に弾み 細胞から抽出した緑色素?赤色素エキスの作用も解明

 茨城大学農学部の朝山 宗彦 教授(東京農工大学連合農学研究科兼任)らの研究グループは、光合成微生物である緑藻コーラストレラ(Coelastrella sp.)の新株の単離?純化に成功し、その株を用いて有用な脂質と色素を短期間で同時に高効率生産させる培養方法を開発しました。その細胞から抽出した緑色素?赤色素エキスは、抗酸化能と抗炎症作用を有することを明らかにしました。
 この成果は、2022年10月15日付けでBiotechnology Reports (ELSEVIER)に採択され、同年10月27日付でオンライン版にプレリリース後、11月30日付で公開予定です。

詳しくはプレスリリースをご覧ください。

研究の背景

 優れた光合成能を有する微細藻類を活用したモノづくり(バイオリファイナリー)が、国内外で大変注目されています。生産される有用物質としては、脂質?タンパク質?糖質に加え、色素などがあげられますが、微細藻類バイオリファイナリーの魅力は、温室効果ガスの主原因である炭酸ガスを餌として与え、安い培地を用いた培養によって、それらを効率よく低コストで生産できることです。それ故、藻バイオリファイナリーの産業化 (社会実装)には、SDGs達成にも関わる食糧問題やエネルギー問題の解決への貢献など大きな波及効果が期待されます。しかしながら、その実現には、有用藻の取得、培養方法の確立、有用物質の生産?抽出?製造法の確立、流通?販売といった各工程に立ちはだかる壁を乗り越えなければなりません。

 既に産業化に成功している微細藻類の例として、真核光合成微生物である 「緑藻」 や 原核光合成微生物である 「シアノバクテリア」 があげられます。緑藻の利活用にクロレラ健康食品(サプリメント)やヘマトコッカス由来の赤色素(アスタキサン)を素材とした食品?化粧品などがあり、シアノバクテリアは、スピルリナ由来の青色素タンパク質(フィコシアニン)を飲食品添加物として、身近なところで利用されています。これらについては、その天然藻に与えられた優れた有用物質生産能力を最大限に引き出す大規模培養技術の確立が必須です。ところが、有用物質生産に関して、飲食品?化粧品?医療品の素材に適するような有用な脂溶性を有する「脂質」や「カロテノイド系色素」を細胞内で同時に効率よく生産できる藻についての検証や、それらの物質を含む細胞抽出液(丸ごとエキス)の機能解析については、これまで殆ど報告されていません。

 そこで本研究では、 有用な「脂質」や「色素」 を大規模培養により同時に生産できる能力を有した 「有用天然藻」を自然界より単離し、高効率生産の培養条件を検証するとともに、得られた細胞抽出液の機能を解析することを目的としました。

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研究の内容

 神奈川県湘南地方の水域より採集した水に含まれる微細藻類をBG11寒天培地上で単離し、同液体培地で純粋培養することに成功しました。この株ゲノムの18S rDNA塩基配列を解読し、分子進化系統樹解析したところ、本株はChlorophyta門、Chlorophyceae綱、Sphaeropleales 目、Scenedesmaceae科、Coelastrella 属の新株であることが明らかとなりCoelastrella sp. strain D3-1と命名しました。この株は、当初30℃培養でスクリーニングして得られたので、その温度付近では高い増殖力を示します。従来、緑藻コーラストレラは、10℃?25℃という比較的低温の培養温度で長い時間をかけてゆっくりと細胞内にカロテノイド系の赤色素を蓄積し、培養液は朱色を呈することが知られてきましたが(図1)、30℃以上での生育状況や脂質と色素の効率的な共生産の培養条件についてはよくわかっていませんでした。

 はじめに、脂質の効率的な生産条件を検証したところ、BG11-P(BG11からリン源を抜いた)培地もしくは0.2BG11(水で5倍に希釈したBG11)培地を用い、2~3%炭酸ガスを充填させた培養装置内で100μmol フォトン/m/秒のLED光量子量を照射しながら30℃で5?6日間振とう培養するだけで、C16:0, C18:1を主成分として含むFAMEs(脂肪酸メチルエステル)を、乾燥菌体重量あたり20?44%(w/w)生産していることが明らかとなりました。これは、他のコーラストレラ株のそれと比較して高い生産能を示しています。C16:0 (パルミチン酸)やC18:1(オレイン酸)は、燃料よりもむしろ飲食品等に向いた成分でした。一方、0.2BG11培地を用い同様の培養条件でD3-1を培養したところ、乾燥菌体重量あたり約38%の色素蓄積が認められ、赤色生育相におけるβカロチン/エキネノン/カンタキサンチン/アスタキサンチン/クロロフィルaの5種類の成分比は、それぞれ0.56%/14.4%/41.1%/33.8%/10.2%であることが明らかとなりました(図2)。βカロチンから生合成される脂溶性赤色素のエキネノン/カンタキサンチン/アスタキサンの3成分が占める総和は、5種類の主要な色素中で90%近くを占めており、脂質と同時に短時間で蓄積されることはこのD3-1株の高い生産力を示しています。

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 更に、環境ストレスに対するコーラストレラD3-1細胞の耐性について検証した結果、pH 2~11、高温(40~60℃)、紫外線照射、H2O2 暴露、凍結?融解に有効性を示すことが明らかとなり、頑強な株であることが示唆されました。この性質は、藻バイオリファイナリーに欠くことができない屋外大規模培養に向いており、今後の活用において期待が持てるものです。 一方、クロロフィルaを主成分として含む緑色素のエキス 並びに エキネノン/カンタキサンチン/アスタキサンを主成分として含む赤色素のエキスは、それぞれ高い抗酸化能や抗炎症作用を有していることを発見しました(図3)。

 以上により、D3-1はバイオリファイナリーに有用な素材を提供することができる有望な株であるといえます。

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今後の展望

 本研究により、緑藻コーラストレラ有望株D3-1を取得し、有用な脂質と色素の効率的な共生産のための培養条件の開発に成功しました。今後は、大規模培養へのスケールアップと有用物質のコスト安な回収?製造法が課題となり、あわせて更なる機能解析が期待されます。

論文情報

  • 論文タイトル:Coproduction of lipids and carotenoids by the novel green alga Coelastrella sp. depending on cultivation conditions
  • 雑誌名:Biotechnology Reports (2022) e00769
  • 著者名:Mizuki Saito, Haruka Watanabe, Mitsuki Sasaki, Madoka Ookubo, Takashi Yarita, Masakazu Shiraiwa, Munehiko Asayama
  • DOI10.1016/j.btre.2022.e00769

本研究は、JSTプロジェクト (OPERA, JPMJTM19BT) ならびに茨城大学/東京農工大学連合農学研究科からの支援により実施されています。