人社?青山和夫教授がマヤ文明の戦争の痕跡を論じた
「マヤ文明の戦争 神聖な争いから大虐殺へ」を出版
人文社会科学部の青山和夫教授が、自身が代表を務める研究グループの成果の一部として、11月20日、京都大学学術出版会から『マヤ文明の戦争 神聖な争いから大虐殺へ』と題した学術書を上梓しました。本書は青山教授が自らの還暦を記念して出版したものでもあるということです。
この学術書は、青山教授が代表者を務める3つの科学研究費補助金(科研費)の基盤研究(B)「マヤ文明の起源と黎明期の政治経済組織に関する基礎的研究」、挑戦的研究(萌芽)「先土器時代からマヤ文明黎明期の過渡期の挑戦的研究」と新学術領域研究の公募研究「マヤ文明黎明期の複合社会の形成と戦争に関する研究」の成果の一部としてまとめたものです。
本書では、考古学と関連諸科学から戦争の痕跡を通時的に辿り、マヤ文明の戦争の性格と、社会の複雑化に果たした役割を論じながら、マヤ文明の盛衰と実像に迫っています。
これまでに先スペイン期のメソアメリカやアメリカ大陸の戦争を扱った論文集は英語で出版されていますが、マヤ文明の戦争を通時的に論じた単著は国内外のいかなる言語でも書かれておらず、本書が世界初となります。2020年に国際的な総合科学ジャーナル「Nature」に論文が掲載された、マヤ文明最古?最大の巨大基壇があるアグアダ?フェニックス遺跡についても紹介しています。
本書概要
マヤ文明の戦争では、敵を大量虐殺するのではなく、政治?経済的な利益を得るために高位の敵の捕獲に主眼が置かれました。高位の捕虜は政治?経済的交渉の道具として利用され、政治的従属、貢納や富、王朝の領域や交易ルートなどが勝ち取られました。戦争では主に殺傷力の弱い「チャート製石槍」で接近戦を展開して、高位の捕虜を捕獲して都市に連行しました。諸王は戦勝儀礼を執行し、都市住民の間に戦争の社会的記憶を構築して権力を強化しました。戦勝儀礼は戦争に参加しない都市住民に対する政治的プロパガンダでもあり、集団アイデンティティを強化し、社会関係を構築する政治的装置でした。戦争が激化しても支配層が住む都市中心部だけに攻撃が加えられ、農民が居住した周辺部を含めた都市全体が破壊されることはありませんでした。
中米で独自に発展したマヤ文明の戦争の痕跡を通時的に論じることで、私たち人類の可能性とは何か、文明とは何か、戦争とは何か、人間の社会や文化の共通性と多様性について、ユーラシア大陸の社会あるいは西洋文明と接触後の社会の研究だけでは得られない見方や知見を提供します。
- 青山和夫『マヤ文明の戦争―神聖な争いから大虐殺へ』京都大学学術出版会、定価6,500円+税