効率的なカップリング反応に銅-ジルコニア固溶体触媒が有効!
高い性能を世界で初めて確認 その要因も解明
茨城大学大学院理工学研究科(工学野)の近藤 健 助教と城塚 達也 助教、北海道大学大学院工学研究院の多田 昌平 助教らの研究グループは、これまで有機分子のカップリング反応にはほとんど利用されていなかった銅-ジルコニア固溶体触媒が、従来の不均一系銅触媒と比べてカップリング反応を効率的に促進することを初めて明らかにしました。また、銅と組み合わせる金属酸化物の種類によって触媒性能が大きく異なり、特に正方晶ジルコニアに固溶した銅触媒が高い性能を示しました。触媒解析とDFT計算によって、銅-ジルコニア固溶体触媒には還元されやすい銅のみが含まれていることや触媒反応を促進する特殊な構造を有していることなどもわかりました。
今回の研究成果によって、より簡便な操作?温和な反応条件でカップリング体を合成することが可能になります。今後は、様々な有機化合物のカップリング反応を試みるとともに、ファインケミカル合成を指向したより高性能な固体触媒を設計?開発します。
この成果は、2023年3月1日、英国王立化学会の雑誌 Catalysis Science & Technology誌に掲載されました。
背景
銅は硬貨や電化製品に利用されている身近な元素の1つです。有機化学分野では、銅は安価で毒性が低く、ユニークな反応性を示すことから、試薬や触媒に利用されます。2022年にノーベル化学賞の対象となった「クリックケミストリー」においても銅触媒が重要な役割を果たしています。
銅触媒を用いるファインケミカル合成は主に溶液中で行われます。実用触媒は、均一系触媒と不均一系触媒という二種類に大別されます。均一系触媒は溶液に溶けて働く触媒であり、高い触媒性能を示すものの、生成物との分離が困難になります。一方、不均一系触媒(たとえば酸化銅)は溶液に溶けずに働く触媒で、生成物との分離は容易ですが、触媒性能が低いという問題点がありました。
不均一系触媒の低い触媒性能を補うには、触媒量を増やす、高温で長時間加熱する等の操作が必要になります。しかし、省資源?省エネルギーの観点から、これらの操作を必要としない「均一系触媒と比肩する高性能な不均一系銅触媒」の開発が求められています。
有機合成化学の分野では、金属酸化物上に銅の微粒子を付着させた「担持銅触媒」が多用されます。担持銅触媒は、酸化銅単体(「非担持銅触媒」)に比べて性能が高くなります。一方、本研究グループが着目したのが、金属酸化物内に銅を分散させた「銅固溶体触媒」の1つである銅-ジルコニア固溶体触媒です。銅-ジルコニア固溶体触媒は二酸化炭素の変換反応などに利用され、高い性能が期待されるものの、これまでカップリング反応等の精密有機合成反応での利用はありませんでした。
そこで本研究では、近藤グループがこれまで行ってきた有機合成化学に関する知見と、多田グループが開発した銅-ジルコニア固溶体触媒を組み合わせることで、高い触媒性能を示す不均一系銅触媒の実現を図りました。さらに、ブラックボックス化しやすい触媒構造やメカニズムを、城塚グループの計算化学によって解明することを目指しました(図1)。
研究手法?成果
銅-ジルコニア固溶体触媒(CuO/t-ZrO2: tはtetragonal、正方晶)の有用性を実証するために、本研究ではイミダゾール1とフェニルボロン酸2のカップリング反応を検討しました(図2)。5 mol%の触媒を用いたところ、空気中、50℃という反応条件では8時間後に81%の収率でカップリング体3が得られました(図2①)。
一方、一般的な酸化銅を触媒とした場合は反応がほとんど進行せず図(図2②)、担持銅触媒であるCuO/TiO2触媒では23%収率にとどまりました(図2③)。また、ジルコニア担持銅触媒(CuO/m-ZrO2: mはmonoclinic、単斜晶)を用いたところ、収率は42%であり、銅固溶体触媒の方が優れていることが分かりました(図2④)。一方、別の銅固溶体触媒である銅-アルミナ触媒(CuO/Al2O3)では収率は32%となったことから、ジルコニアが触媒の材料として優れていることが分かりました(図2⑤)。
そこで、銅-ジルコニア固溶体触媒(CuO/t-ZrO2)が他の触媒に比べ、優れた触媒性能を示す要因を明らかにするため、水素による昇温反応法(H2-TPR)を用いて触媒中の銅(Cu2+)の還元性を測定しました。その結果、CuO/t-ZrO2は還元されやすい銅(低温域(~150℃)で還元されるCu2+)のみが存在するのに対し、他の銅触媒では還元されにくい銅(高温域(200℃~)で還元されるCu2+)が大半を占めていました。また、目的生成物3(図2の化合物3)の収率に対して還元されやすい銅の比率をプロットしたところ、比例関係にあったことから、銅の還元されやすさが触媒性能の高さに重要な役割を果たしていることが示唆されました(図3)。
さらに、銅-ジルコニア固溶体触媒(CuO/t-ZrO2)の構造を明らかにするために、X線回折法(XRD)やX線吸収分光(XAS)、DFT計算を用いて解析したところ、一般的な酸化銅(八面体構造の銅[CuO6])とは異なり、平面四配位構造を形成していることが分かりました。このような特異的な構造も触媒反応を促進していることが分かりました(図4)。
また、銅-ジルコニア固溶体触媒を用いると、図5の4~13で示した様々なイミダゾール誘導体を合成できることが分かりました。
今後の展望
本研究では温和な条件下、銅-ジルコニア固溶体触媒による有機分子のカップリング反応を初めて見出し、さらに高い反応活性の要因も特定できました。
一方、触媒の汎用性や再利用性を見据えると更なる材料探索による高性能化が必要です。今後は銅とジルコニアの比率を変えた触媒や他の還元性の高い銅触媒を用いて、より優れた触媒の探索を行いたいと考えています。また、銅以外の金属を用いたジルコニア触媒を開発し、様々な精密有機合成反応にも展開させていく予定です。
論文情報
- タイトル:Catalysis of surface dispersed Cu2+ species on t-ZrO2: Square-planar Cu catalyzed cross-coupling of arylboronic acid and imidazole
- 著者:Masaru Kondo, Tatsuya Joutsuka, Kakeru Fujiwara, Tetsuo Honma, Masahiko Nishijima, Shohei Tada
- 雑誌: Catalysis Science & Technology
- 公開日:2023/3/1
- DOI:10.1039/D3CY00024A