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広報紙「IBADAIVERS」特別対談
ーDXによる意識変革が促進させる共創の機会

PROFILE | 1997年より茨城大学農学部で教鞭を執り、2010年同農学部長?大学院農学研究科長に就任。2014年副学長(大学戦略?IR)、2016年理事?副学長(教育統括)を歴任し、2020年4月より現職。 専門は土壌肥料学、微生物生態学。 PROFILE | 2007年茨城大学大学院理工学研究科博士前期課程 システム工学専攻修了。茨城大学工学部在学中の2005年に株式会社ユニキャストを設立。現在はロボティクス事業やITサービス事業を 展開しつつ、地域貢献型シェアハウス「コクリエ」も運営し、テクノロジーの力で地域社会を明るく幸せにすることに情熱を注ぐ。


 3月発行の広報紙「IBADAIVERS」は、"DX"を特集しました。ここでは、太田寛行学長と、茨大OBでIT起業家の三ツ堀裕太氏との対談の様子をお届けします。
 話題はDXの枠を越え、大学での学びの深め方、日本人起業家が海外に挑戦する際の心得、そして、地域で学び働くことへの矜持へと展開していきました。

DXは、新旧の考え方を混ぜ、新たな価値感を構築する好機

太田 本学では、2022年度から情報戦略機構を立ち上げ、本腰を入れてDXを推進しています。三ツ堀さんは、本学在学中に起業し、日立市を本拠地として地域の活性化を常に視野に入れながら、米国のシリコンバレーにも拠点を設けて活躍していらっしゃいます。ぜひ豊富なご経験からDXについてのお話を伺えればと思います。

三ツ堀
私は、DXを専門にしているわけではありませんが、そもそもDXという言葉が何を指してるかというと、おそらく過去のやり方を一度抜本的に見直して論理的に考え直した結果、このやり方のほうがスマートで本質的だということを導き出して、これまでのやり方にミックスしていくということなのだと思います。たとえば、この会社の受付はAIロボットが担当していますが、" おもてなし"という日本の伝統的な習慣を考えた対応を取り入れています。DXという言葉がちょっとバズワードのようになっている今の状況は、新旧の考え方をガチャガチャとかき回して、新しい考え方を構築するいい機会なのだろうととらえています。

太田
大学でも同じような意識改革が起きていると感じます。そして、やはりコロナの影響はとても大きかったですね。長い間維持してきた具体的な礼儀作法が表現できなくなり、オンライン化せざるを得なくなったとき、その変化をポジティブにDXという言葉で表そうとした側面もあるんでしょうね。

三ツ堀
確かにそうですね。コロナがきっかけでスピード感が増し、DXの定義もだいぶ拡大された感じがします。

スピード感とチャレンジ数 シリコンバレーとの圧倒的な差

太田 三ツ堀さんはシリコンバレーにも拠点をお持ちですが、現地でのDXはどのような状況でしょうか。

三ツ堀
実は、シリコンバレー支社は人材面から一旦閉じてしまったんですが、変わらず事業の拠点のひとつにはなっています。DXという視点からは逸れるかもしれませんが、現地で私が体感したことをお話しさせていただくと、シリコンバレーは、企業同士が協業?連携して共存するエコシステムとしてはかなり先を行っている部分はあります。ただ、技術単体で見れば、自分たちの力も決して見劣りするものではないと感じています。圧倒的な違いは何かと言えば、それは、チャレンジの絶対数とそこに挑む勢いです。驚いたのは、何百社もが入るインキュベーション施設があるのですが、そこで知り合ったたくさんのメンバーが、半年後に訪れたときにはただの1人も残っていなかったということです。半年でここまで劇的に変化する世界が、同じ地球上にあるのかと本当に驚愕しました。

太田
そのスピード感は、社会にどういうプラスをもたらすと感じますか。

三ツ堀
いい面とそうでない面があると思います。よいものを生み出すスピードを加速させる効果はあると思いますが、研究には時間をかけて積み上げて初めて達成し得るという面も大きいですよね。シリコンバレーの起業家たちは、例えるなら、若手のお笑い芸人のような印象です。ひな壇に並んでいてチャンスが来たら、司会の人に「はい!はい!俺にまかせてくれ!」と、胸を張って手を挙げる。自信があってもなくてもです(笑)。一方、たいていの日本人は95%完成していても、「いや、まだ全然できてなくて...」と言って手を挙げない。チャンスを前にして強さを発揮するのは、前者なわけです。でも、実際に要求に応えられなければ自滅してしまうことも多くて...。

太田
自己アピールは必要でも、「嘘をつかない」ということは、研究でもビジネスでも原則ですよね。

三ツ堀
ええ、特に日本人には、とにかくいつでも手を挙げなさいというスタイルは、ちょっと対応し難いです。ただ、手を挙げない限り土俵に上がれませんから、求められていることと自分の実力とのバランスをいかに的確に判断してタイミングよく手を挙げられるか。それが、海外に限らずビジネスにおいて重要なことだと実感しています。

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横道にはずれるときは逃げずに まずは自分の中で筋道を通す

太田 日本はどこの学部もしっかりしたカリキュラムがあって体系的な学びが尊ばれています。その半面、ちょっとした興味や気づきに導かれて脇道に逸れるチャンスというのがつくりにくい気がします。私自身、学生時代は農学部で土壌微生物を研究し、その後、自身の興味を追求する形で別の大学の歯学部に進んで口腔細菌学を学ぶという経験をしました。学際的な学びがもっとしやすくなるといいなと思います。

三ツ堀
先生のように、ご自身の中で脇道に逸れることへの筋道がきちんと立てられていて、そこにポジティブなエネルギーを注げるときには、大いに意義があると思います。一方で、私の会社でインターンとして迎える学生の中には、現実逃避のために横に逸れようとしている人がいることも事実です。単位が取れていないのに創業を考えたり、転部や転学を考えたりとか。「おいおい、もう少し長期的に自分が将来何を生業として生きていきたいのかについて仮の道筋を立ててからじゃないと難しいぞ」と、そういう若者には厳しく伝えています。

太田
確かにそうですね。自分自身が納得できるロジックは必要ですし、結局は、自分の内側から湧き出るエネルギーを正しく生かす道を自分で選択することが、学びを深めるためには欠かせないですね。

地域に誇りを持てるような場を共創、創発の力でつくりたい

太田 地域とご自身の関係性については、どのようにお考えですか?

三ツ堀
私は、日立や茨城も大好きですし、東京も大好きです。最近反省しているのは、地方や地域について語ろうとすると、つい「vs東京」みたいな喋り方をしてしまうところがあるんですよね。それはナンセンスだし、それぞれのメリット、デメリットを理解し、うまく補充し合うべきだと思います。コロナ禍で地方への移住や仕事のリモート化が進んだことは、そのあたりの価値観の変化にも影響してくるかもしれません。

太田
大学でもまったく同じ考え方をしています。茨城という地にいることをネガティブにとらえるような風潮は、なんとしても変えたいですね。東京や大都市のすべてがよいわけではないですから、それぞれの地域の特性を見極めて、地域の優れた点を学生にも周知できるようにしていきたい。しかし、その一方で、入学生を募る広報戦略として、「ここの研究室からこの大手企業に入りました」といった情報が効力を発揮する部分も、まだ確実にあります。大学入学や就職には、親世代の感覚というものも大きく作用しますからね。

三ツ堀
この『コクリエ』という場を作ったのも、まさにその理由からなんです。「茨城にも活躍している人がごろごろいるぞ」ということを示すためには、何かシンボリックなものが必要だと思ったんですね。人材育成に加えて、新しく何かを立ち上げようとする実験的でワクワクするような空気感を体現できるような場をつくろうと思って。僕は集合知、群知能の研究をしたことがあるんですが、最低限のルールを決めた上で、いろいろな人がいろいろな動きをすると、想像していなかったようないい答えが導かれるーいわゆる共創とか創発といったことが起こる場になればとの想いから、名称をco-creationを元に『コクリエ』と名付けたんです。

太田
茨城大学も現在「共創」をテーマにしていますから、それはとても共感できるお話です。誰かひとりが引っ張っていくというよりも皆で何かをやりながら、新たな価値を生み出していくことが理想ですね。実際、今日ここにお伺いして、今私の頭の中に、こういう場をキャンパス内にもつくれないかなという考えがさきほどから浮かんでいます。ぜひこれからも共創の関係を築けたらと思います。今日はありがとうございました。

三ツ堀
こちらこそ、母校の広報紙で学長と対談させていただく機会を得て、とても嬉しい気持ちです。これからもどうぞよろしくお願いします。

取材?文:笠井峰子?茨城大学広報室 | 撮影:小泉 慶嗣

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IBADAIVERS_LOGO.pngこの記事は茨城大学の広報紙『IBADAIVERS(イバダイバーズ)』に掲載した内容を再構成したものです。