茨城県北の企業を巡り女性技術者と交流するバスツアーの様子をレポート
県内の中高生が多数参加 女性技術者が活躍できる地域の実現をめざす取り組み
中学生?高校生の女子たちが、女性技術者が活躍する茨城県北地域の企業を訪れて見学?交流するというバスツアーが、8月24日と28日、工学部の企画により初めて行われました。募集開始後すぐに満員となるなど大きな反響があったこのツアー。24日の模様を取材しました。
この「夏休み企業見学バスツアー」は、「茨城県北部で、技術者として働く誇りと喜びを」というテーマを掲げた茨城大学工学部の提案が、科学技術振興機構(JST)の令和5年度「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」に採択されたことを受け、企画されたものです。
日本では様々な分野でジェンダーギャップが見られますが、大学進学で理工系の進路を選ぶ学生のジェンダー比を見ても、女性の割合が極端に少ない状況です。茨城大学工学部の女性学生の割合も、1割程度しかいなかった以前に比べれば増えているものの、まだ15%前後。茨城県北の産業基盤を守り、育てていくためには、多様な技術者が誇りをもって働き続けられることが不可欠です。茨城大学工学部としてもこれまでの取り組みをさらに強化し、啓発の対象を中学生にまで広げることにしました。
その具体的な取り組みとして企画したのが、中学生?高校生の女子たちを対象とした今回のバスツアーです。
訪問先は、最近工学部を卒業した女性が実際に就職した茨城県北地域の企業を中心に選び、キャリア支援室のスタッフなどが訪れて、受け入れやプログラムの内容について相談。「女性の技術者を増やしたい」「茨城県北を元気にしたい」という想いの一致を確認しながら、ツアーの詳細を検討していきました。
今回広報室が取材した8月24日のツアーは、朝9時に日立駅を出発して、電気機械器具メーカーの株式会社三友製作所と株式会社神戸工業試験場の2社を巡るというもの。参加者は12人の中高生です。
三友製作所では、4人の若手女性社員の方々が説明、見学、座談会を担当。参加した中高生たちのほとんどにとって、人生で初めて訪れる製造業の会社。説明も「製造業って何??」というところから始まります。
女性社員のみなさんは、イラストを上手に駆使したポップな雰囲気のスライドを用いて、お客さんのニーズを聞く「営業」、そのニーズを踏まえた「設計」、材料の「購買」、材料の「加工」と製品の「組立」、そして「検査」して「納品」という、製造業の仕事のステップをわかりやすく紹介。聞いている参加者たちの頭の中で、仕事のイメージがぐっと広がります。
その後は工場内で加工や組立、設計の様子を見学。加工の現場では、大きな機械からの作業音が鳴り響く中、ラインを歩き進み、材料が部品へと加工する様子などを見せていただきました。打って変わって、ガラス越しに見た設計の現場の方は、しーんとした様子でたくさんの社員がパソコンに向かって作業中。多様な現場の姿に、参加者のみなさんの目も好奇心いっぱいの様子でした。
後半は設計の体験プログラム。設計の業務用ソフトウェアであるCADを使って、文鎮の設計図づくりに挑戦しました。
そのデモンストレーションを担当したのが、入社2年目の設計担当?池田桃子さんです。池田さんは那珂市の出身で、一昨年の3月に茨城大学工学部を卒業。池田さんが所属していたコースの同級生は、全40人のうち女性は2人だけ。「入学当初は進路選択を間違えたかな......って思っちゃいました(笑)」と振り返ります。
就職活動では東京に拠点がある大きな企業もチェックしましたが、インターンシップで訪れた三友製作所では、「設計と製造の距離が近いのが魅力に感じられた」(池田さん)とのこと。それが就職の決め手になったそうです。
設計の業務にはまだまだ難しさを感じていますが、女性の社員も多い中で、先輩たちに助けられながらがんばっています。
ところで、製造業についての説明の場面で、参加した生徒たちの表情が変わった瞬間がありました。それは、日立市の製造業の事業所数の変化が紹介されたときです。
40年前の1983年には870社だったのが、2020年には半分以下の276社にまで減っているとのこと。
池田さんも、設計の仕事を担う若い人がもっと増えてほしいと語ります。「設計チームでは私の次に若い先輩が8歳上。男女限らずですが、ぜひ興味をもってほしいです」。
最後の座談会では、参加者から「今のうちにやっておくべきことは?」という質問がありました。それに対して、各部署の社員のみなさんが口を揃えたのが、「幅広い経験とコミュニケーション」。営業担当の平野莉沙さんは、「仕事はひとりでやるものではないので、社外でも社内でもコミュニケーションが大事。学生のうちにいろんな経験をして、たくさんの人と話してほしい」と説明してくださいました。
ちなみに、かわいくてわかりやすい資料や、CAD体験、和やかな座談会など、4人の若手女性社員のみなさんの「おもてなし」が印象的だったのですが、その様子をあたたかく見守っていた常務取締役の加藤木真紀さんによれば、今回の一連のプログラムは、「彼女たちが一から自分たちで考え、用意したもの」だそう。本人たちにお任せした結果、魅力的な内容になったことについて、「自社のことながらすごく良かったと思います」と目を細めた加藤木さん。受け入れ企業の皆様も手応えを感じてくださるというのは嬉しいですね。
さて、三友製作所を出発した一行は、日立市久慈町のイタリアンレストラン「プルチーノ」でおしゃれなランチ(これもバスツアーの推しポイント!)をとった後、2社目の株式会社神戸工業試験場へ。
神戸工業試験場は、独自の商品を加工?製造?販売しているのではなく、他社のさまざまな工業製品や部品や材料の強度などの試験を行う企業です。
たとえば鉄道に使われる金属の接合部が、引っ張りによってちぎれたりしては困ってしまいます。そこでメーカーから製品の部品や材料の金属片を預かり、特殊な装置を使って実際に強い力で引っ張り、その耐性をテストします。その他、衝撃や曲げに対する強度、金相試験(金属?合金の組成や組織の検査、腐食試験や有機?ガス分析などの化学試験など、試験のメニューは多岐にわたります。
社名のとおり本社は神戸市にありますが、一部の大きな検査設備は茨城事業所にしかないそうで、地域ごとに試験の専門分野が異なっているとのこと。そのため技術者はそれぞれの事業所で採用する「地域採用」が基本だそうです。
今回、技術者の仕事に至るまでの経歴を参加者の前で語ってくださったのは、茨城大学工学部物質工学科を卒業して、昨年4月に採用された大戸桜子さんです。
大戸さんは小さなころから好奇心旺盛で、気になったことは何でも「実験」しないと気が済まない性格だったそう。「難しいことを考えるより行動したいタイプ」と自ら語る大戸さんは、とことん研究に打ち込む理学部よりも、工学部の方が自分に向いていると考え、進学先を決めたそうです。その経験から、「進学にあたっては、大学をどこにするかというより、どの学部や学科に行きたいかを選んだ方が良いです」と参加者に語りかけていました。
大学の友人たちはITエンジニアや研究開発職を目指す人が多かったようですが、大戸さんは大学のキャリア支援室を通じて神戸工業試験場の存在を知り、さまざまな企業のモノに触れて実験ができるという仕事に強く惹かれたそうです。現在は金相試験を担当し、金属片と向き合う毎日を過ごしています。説明会のあとの見学では、引張試験のデモンストレーションなどを見せていただいたあと、大戸さんの普段の作業部屋もみんなで訪れ、そこではさらにじっくり話を聞かせていただきました。
「実験に興味のある人は、調査?試験という仕事もあるということをぜひ知ってほしい」と語る大戸さんの明るい口調には、仕事への充実感があらわれていました。参加したみなさんも共感を覚えていた様子です。
神戸工業試験場をあとにして、最後は日立キャンパスで振り返り。工学部の乾 正知学部長から工学部の概要などを紹介しました。
「将来を考える上で少しでも情報を得られればと思って参加しました」と話してくれたのは、日立市内に住む中学2年生の参加者。「ものをつくることは自分は得意ではなかったのですが、普段見られない工業の企業の様子を見ることで、興味が湧きました。今後はものづくりにも目を向けて将来を考えたいです」とのこと。今回のバスツアーが良いきっかけになったようです。
なお、バスツアーは8月28日にも行われ、そちらのグループでは、茨城大学工学部とも連携協定を結んでいるJX金属(株)日立事業所や、鈴縫工業(株)のみなさんとの交流、見学を行いました。
今回好評だった本バスツアー。工学部では今後も様々な企業を訪れるツアーの開催を計画しているようです。お楽しみに!
参加者のみなさん、協力企業のみなさん、ありがとうございました。
(企画?構成:茨城大学広報室)