脱炭素化語る日立製作所のイベントに工?吉田友紀子助教が登壇
―地域ぐるみの取り組みを加速化させるために
9月20日~21日に東京ビッグサイトで開催された日立製作所主催のイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2023」。「グリーン×デジタルで加速する地域イノベーション~人々のウェルビーイング向上と地域の成長をめざして~」と題する20日のビジネスセッションには、茨城大学カーボンリサイクルエネルギー研究センター(CRERC)のメンバーでもある理工学研究科(工学野)の吉田 友紀子 助教が学術界の代表として登壇しました。
今回吉田助教とともに登壇したのは、NTTアノードエナジー株式会社の関 洋介 氏(副社長執行役員)、株式会社日立製作所から永野 勝也 氏(執行役専務?社会ビジネスユニットCEO)と馬島 知恵 氏(執行役常務デジタルシステム&サービス担当CMO兼社会イノベーション事業統括本部長)です。また、同社の佐藤 雅彦 氏(研究開発グループ 技術戦略室チーフストラテジスト)がモデレーターを務めました。
セッションの冒頭、日立製作所の馬島氏は、世界と日本の脱炭素化の取り組み状況と日本の課題を各種データとともに紹介。まず、温室効果ガスの排出実質ゼロに向けて2050年にはグローバルで、化石燃料から再生可能エネルギー利用の大きなエネルギーシフトがあるため、すべての人が活動のしかたの変化が必要という状況を説明。そのような中で、年間の発電量(2020年)に占める再生可能エネルギーの割合や太陽光発電のコストが、欧州と日本との間で2倍もの開きがあることなどを示し、「欧州では脱炭素化を契機に、再生可能エネルギーを化石燃料よりも安く安定的なエネルギーとして利用しているように見える」と指摘しました。また、市民が環境負荷の少ない商品やサービスを選ぶ割合も、日本は欧州の半分程度であることから、市民の理解も重要という見解を示し、「日本でも脱炭素化を加速化させるためには、地域での実装が重要で、そのためには産官学民の関係者が今まで以上に一体となった取り組みをどう進めていくかが重要なポイントになる」と述べました。
それを受けて、吉田助教は、日立市を事例とした地域のカーボンニュートラルへの具体的な取り組みを紹介しました。環境工学や建築?都市デザインを専門とする吉田助教の研究室で現在進めているのは、環境負荷を減らしながら環境品質を高めるような建築や都市のモデルづくりです。そのためには、CO2排出量をできるだけ正確に「見える化」することが大事になります。環境工学や建築?都市デザインを専門とする吉田助教の研究室で現在進めているのは、環境負荷を減らしながら環境品質を高めるような建築や都市のモデルづくりです。そのためには、CO2排出量をできるだけ正確に「見える化」することが大事になります。
環境省では、地方公共団体のCO2排出量に関する情報を整理した「自治体排出量カルテ」を出していますが、それは「統計から推計されたもので、実態と合っていないところがある」とのこと。そこで吉田助教の研究室では、建物の窓や空調の性能、人の活動といった細かなデータを実験から算出し、それらを入力して、1時間という細かい単位での排出量のシミュレーションに挑戦しています。まずは、人びとの行動スケジュールをつかみやすく、まちの縮図として実験しやすいキャンパスを対象に、建物の目的別の推計と「見える化」に取り組みました。
年間の記録を見てみると、コロナ禍においては、電力のピークが夏ではなく冬に来ていることが確認されたそうです。「通常はエアコンを多く利用する夏のピーク電力量が大きくなると考えられているが、コロナ禍は冬でも積極的に換気を行うことで、冬の方がピーク電力量が高くなった」と吉田助教。さらに換気を扱ったシミュレーションでは、自然換気を行った方が、自然換気をしないときに比べて電力が3.6%増加したというケースもあったそうです。こうした例は従来の推計では考慮されていなかったことから、「今回得られたような行動変容に関わる結果も推計に含めながら、建物の設計や情報発信を考えることが脱炭素につながる」と説明しました。
会場では、このセッションのために作成したという、日立市の年間CO2排出量を細かく示したヒートマップを披露。これは建物ごとの情報をもとに作成されており、地図上にあらわれる雲のような形のオレンジ色模様の分布から、市内のエリアごとのCO2排出量の状況が一目で分かり、スケールも切り替えることもできます。「こうしたツールをみんなで活用しながら、どこに対策を打つべきかの議論ができれば」と吉田助教は提言しました。
その後は、日立製作所の永野氏から、日立グループにおけるマイクログリッド型エネルギー供給サービスの開発や、工場及びサプライチェーン全体でのCO2排出の見える化と削減の取り組みなどが紹介されました。
また、発電や電力の小売り事業などを手がけるNTTアノードエナジー株式会社の関氏は、最近力を入れている地域の脱炭素化の支援の事例を説明。若い社員が「プロデューサー」のような役割を自認して地域に関わり、エネルギーの地産地消などさまざまな切り口からの脱炭素化のサポートを行っていることなどを紹介しました。その上で関氏は、「将来的にはガスや水道、通信といった他のネットワークとの間で連携していくようなオープンな仕組みを想定してシステムを考えることが肝要」と話しました。
3人のプレゼンテーションを踏まえ、日立製作所の馬島氏は、「地域デジタルグリーンネットワーク」というコンセプトを提示。産?官?学?民が地域ぐるみでつながり、脱炭素化へ向けた社会実装を進めていくことの重要性を改めて強調しました。
そうした複数のステークホルダーが機動的に関わる取り組みにおいて重要なのが、やはりCO2排出量の「見える化」です。モデレーターを務めた佐藤氏は、「以前、吉田先生の話を聞いたときに印象的だったのが、『誰のための見える化なのか』という問いだった」と語った上で、吉田助教にコメントを求めました。
吉田助教は、「エネルギー消費はいくらでもデータ化できるけれど、こうしたデータを毎日かじりついて見ている人はいない」と指摘。「快適性のような、メリットを感じられる情報を出さなければ行動につながらない。健康面の利点など、自分のためになる情報があれば参加しやすくなる」と提案しました。
全体の議論を受けて、日立製作所の永野氏は、「一人ひとりのエネルギーの供給源がバラバラでは脱炭素化の取り組みの効果は出ない。地域電力に集約し、それによって地域特性も表現しながら価値を出していくことが必要で、全国ネットワークの中でそれらの価値をお互いに出しあう中で需給バランスができてくる。もう10年、20年と長く続く道のりだが、今日参加しているみなさんと一緒になってこういう活動を広げていくことができればと思っている」と呼びかけました。
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(取材?構成:茨城大学広報室、写真2?5?6枚目は日立製作所提供)