教育学部の検地再現実践、いよいよ実際の小学校で実現!
―かすみがうら市立下稲吉小学校6年生の授業におじゃましました
茨城大学教育学部の千葉 真由美 教授(専門:日本近世史)と大学生?大学院生たちのチームが、11月9日、かすみがうら市立下稲吉小学校を訪れ、6年生の社会科の授業で、近世の「検地」の体験学習の実践を行いました。
千葉教授のチームでは、歴史学と教科教育の研究として、江戸時代の古文書や絵などの史料を解読し、さらに実際に道具を使って再現してみることで、検地の具体的な手順を検証する活動を行っています。あわせてそれらの知見を活用し、社会科や算数といった教科横断の体験学習の教材化も進めています。
この取り組みは2018年度にスタートし、本ホームページでも2021年(教育学部の教育用圃場)と2023年(農学部附属国際フィールド農学センター)の検地再現の様子をレポートしてきました。
測量した土地の広さなどを記した検地帳や、検地の様子を描いた絵といった資料は残っているものの、その詳細な手順を説明した資料はほとんどありません。
史料によっては1日で300枚もの田畑の検地を行ったという記録がありますが、活動が始まった当初は、ひとつの土地を検地するのに30分以上要していました。しかし、工夫や試行を重ねるうちに、現在ではかなり効率的に進めることができています。こうした試行の積み重ねを通して、史実の検証の精度を高めていく取り組みです。
あわせて、教育学部ということもあり、この活動を小学校や中学校の現場の歴史教育に取り入れていけるよう、教材化も進めています。
そんな中、検地再現のプロジェクトがスタートした2018年度に学部4年生として活動に参加し、現在は下稲吉小学校に勤めている関沙耶香教諭から、「6年生の歴史の授業で検地実践をやってみたい」というオファーが千葉教授のもとに届き、実際の小学校での初の検地再現授業が実現することとなりました。
関教諭は、「歴史の学習については難しい、ちょっと大変と思っている子どもたちが多い中、この学年では体験的な学びを大事にしてきたこともあって、検地のことを思い出して千葉先生に相談したんです。もともと『道具を貸してほしい』から始まったのが、だんだん話が大きくなってきて(笑)」と話します。
最初に関教諭から相談があったのが今年の6月。そこから学生たちは、関教諭から子どもたちの様子などを聞き、具体的な授業計画を立てていきました。
授業案を作る上では、子どもたちの安全はもちろんのこと、45分という短い時間の中でどの工程まで再現できるか、等積変形のような他教科の要素をどこまで盛り込むか、どの係を担うかによって子どもたちの間で作業量に差が出る点をどうフォローするか......といったポイントについて議論をし、大学内で試行を重ねたそうです。
授業当日。少し風のあるグラウンド。「検地方」と書かれたのぼりがはためく中、実践が始まりました。下稲吉小学校の6年生は32人×3クラス。学生は23人。2時間目、3時間目、4時間目と、同じ内容の授業を3回行います。
子どもたちは、学生たちが作成した教材を使って、「十字木」や「細見竹」「梵天竹」「水縄」といった道具について事前に学んできましたが、実際の道具(史料をもとに学生たちが作ったもの)を見るのはもちろん初めて。ひとつひとつを紹介していく学生の姿を真剣な面持ちで見つめます。学生が「普段、長さを測るときは『センチメートル』や『メートル』を使うけれど、検地では『間』という単位を使うよ。1間は何センチかわかるかな?」と聞くと、子どもたちから「180センチメートル!」という声があがります。予習はばっちりのようです。
グラウンドには、長方形と平行四辺形が、それぞれ2セットずつ、白線で描かれています。これらが今回検地をする区画です。子どもたちは2つの班に分かれ、さらに担当する道具ごとに学生たちがついて、作業をサポートします。
四隅に「細見竹」が立ち、各辺の真ん中に「梵天竹」。対面する梵天同士の間に「水縄」を張り、2本の水縄が直角に交わっているかを「十字木」で確認します。その状態で、1間の長さの「間竿」を使って縄の長さを測ります。「1間、2間、3間...」という子どもたちの元気な声。その間数を、記録係の「帳付」が手元のホワイトボードに記録し、縦と横の長さがわかったら、面積を求めます。
「間」の単位を「センチメートル」に変換して、縦の長さと横の長さを掛け算。
その答えと、先に現代の方法で計測した面積とを比べてみると、見事一致!
歓声と拍手で盛り上がります。
長方形の検地に成功したら、次は平行四辺形の検地に挑戦。こちらは長方形と違って、2本の水縄は垂直に交わらず、十字木がうまくはまりません。そこで、面積を変えないようにしながら、縄同士が直角になるように、細見竹と梵天竹の位置を調整していきます。ここが頭の使いどころです。指示役の学生がプリントを掲げて見せながら、「こうすれば、もとの平行四辺形から面積を変えずに長方形を作れるよね」などと声をかけ、みんなで考えながら動きます。
そうして導いた結果も、無事に事前計測の結果と一致しました。
初めての小学校での実践。学生チームを引っ張った教職大学院1年の鈴木孝明さんに手応えを聞いてみたところ、「かなり上々です。予想よりもうまくできたと感じています」とのこと。
実際、子どもたちからも、「楽しかった」「昔の人が今よりもいろんなことを考えながら土地の大きさを測っていたということがわかった」といった感想が聞かれました。
鈴木さんがとりわけ良かったと感じているのが、難易度の想定がうまく現実にはまった点だそうです。「もともとは長方形だけで、平行四辺形は測らない計画だったのですが、自分たちで練習を重ねたり、関先生と相談をする中で、直前に変更しました。やや難しそうなクラスもありましたが、考えるきっかけになったと思います」と鈴木さん。
また、ひとりひとりの学生が子どもたちにこまめに声をかけている点も印象的でした。この点については、最初の2時間目の授業を経て、手順の説明が子どもたちにうまくいきわたっていないという反省があり、また関教諭からも「もっと揺さぶってみてもいいですよ。どう思うか聞いてみて」というアドバイスがあったそう。そこからうまく軌道修正して、2時間目より3時間目、3時間目より4時間目と、どんどんしっくり来るようになりました。これには千葉教授も「学生たちは対応力がある。伊達じゃない」と太鼓判を押します。
一方、今回は子どもたちの取り組みやすさを考えて、算数?数学の要素をあまり入れ過ぎないように考慮したのですが、「もっとやってみても良かったかも知れない」と、千葉教授は振り返ります。実は今回の実践でも、関教諭の呼びかけにより、数学を専門とする教員が途中から加わっていました。関教諭は、「(数学の教員が)子どもたちが考えつかないことをぽろっと言ってくれることで、考えがより深まります。社会科だけでなく、いろんな先生を入れて横断型でやらないと成功しないと思いますね」と語っていました。
今回の体験を踏まえて、今後はサポーターの人数を減らしてもできる実践方法を検証していくとのことです。また、検地の検証研究に関しては、「次は地域の実際の圃場でやってみたい」と、千葉教授は話しています。
教育学部の検地再現実践、まだまだ続きます!