インドネシアでサステイナビリティの実践農学を学ぶグループ実習
―大学院のプログラムに参加した山南明さんに聞く
茨城大学はサステイナビリティ学の国際的な拠点となることを目指し、アジアの複数の大学との連携により、気候変動に対するレジリエントな開発を目指した研究?教育の活動を加速させています。
このビジョンを導いた取り組みのひとつが、2007年度に大学院農学研究科でスタートした「地域サステイナビリティの実践農学教育プログラム」です。インドネシアの大学との相互短期研修はコロナ禍で一時休止しましたが、今年度からは事前のオンライン研修と9月の現地実習を組み合わせた新たな形で再スタート。日本学生支援機構(JASSO)の海外留学支援制度の対象となっているこの実習は、同機構のWEBサイトでも好事例として紹介されました。
昨年9月の実習に参加した農学研究科修士課程1年の山南 明(やまなみあかり)さんに話を聞きました。
どんなプログラム?
大学院農学研究科の「地域サステイナビリティの実践農学教育プログラム」は、コロナ禍で休止となる前の2019年度までは、日本人学生がインドネシアを訪問して実施する「サマーコース」とインドネシアの学生を日本に招聘して実施する「ウィンターコース」という相互短期研修を中心に構成されていました。インドネシア?ボゴール農科大学で実施する「サマーコース」には、他の国?地域の大学からも参加があり、茨城大学にとってはASEAN地域の大学との教育交流の基盤となりました。
今年度から、事前のオンライン研修(熱帯農学特論)とボゴール農科大学での現地実習(熱帯農学フィールド実習)、事後の研究交流(地域サステイナビリティ演習)を組み合わせた新たな形で再スタートしています。今年度の現地実習は9月2日~9日の8日間行われました。
山南 明さんインタビュー
----参加した動機は?
山南「大学生のうちにどこか海外へ行きたいというのはあったのですが、学部のときはコロナ禍と重なっていたこともあって、積極的に飛び込む感じではありませんでした。修士課程に入ってから、指導教員の大久保武先生から『こんなのがあるんだけど興味ない?』と教えてもらったのがこのプログラムでした」
----前期のオンライン研修はどんなもの?
山南「インドネシアの大学の先生やいろんな専門職の方とつないで話をしてもらい、短いディベートを行うというものです。日本国内の他の大学からの参加者もいます。私自身は英語が苦手で不安でしたし、こちらの教室のスクリーンに向こうの教室が映っていて、その状態でディスカッションをするんですけど、日本人学生はほぼ発言しません。インドネシアの学生は活発な印象で、『日本人は発言しないの?』とか『シャイだね』とか言われました」
----そんな体験を経てからの8日間の現地実習。どういうプログラム?
山南「スケジュールはみっちり詰まっていました。レクチャーの日とフィールドワークの日が交互にあって、8~9人ぐらいのグループ単位でレポートとプレゼンをまとめます。レクチャーはボゴール農科大学の先生がサステイナブルな農業について話してくださるのですが、実習期間中に太田学長もたまたまボゴール農科大学へいらしていて、特別講義をされました」
----レクチャーは興味のある内容でしたか?
山南「持続可能な農業をテーマにしているので、国としての発展に重要な水質や農林分野の話が多かったと思います。私は動物が専門なので視点は異なるのですが、特に水質は食べ物や動物に直結する話なので、まったく関係ない話ということでもなく、とても楽しく聞けました」
----グループの構成は?
山南「日本からは茨大のほかに琉球大と北海道大の学生が参加していて、それにフィリピンの大学から若手の先生も参加していました。ボゴール農科大学の学生からは、現地学生のほかに、ガーナやパキスタン出身の留学生も参加していました。1つのグループは半分ぐらいが日本人で、あとはボゴール農科大学から3人、フィリピンの大学から1人。年齢幅がすごく広くて、政府などで働いているという社会人の学生などもいました」
----フィールドワークはどんな様子?
山南「最初に行ったところでは、伝統的な稲の植え方を見せてもらいました。その次はオーガニック農業をやっているところ、次はプランテーションのコーヒー農場......という形でいろいろな農業の現場を回る感じです」
----特に印象に残っていることは?
山南「日本の消費者はオーガニックに対して敏感で、農産物として付加価値がつくのが当たり前ですが、地方部ではオーガニックであることの理由や価値といったものが消費者に浸透していないこともあるようでした。農薬を使っていても使っていなくても同じ値段で売っていることもあると知り、驚きました。ただ、全体的には理解が広がっていて、高付加価値な生産物を安定供給できているケースもあるということでした。消費者の考えも生産者の考えも多様なんだということが勉強になりましたね」
----他にはどうですか?
山南「3日目にお茶のプランテーションを訪れたのですが、その日は赤道上の山の上のキャンプ場みたいなところにテントを建てて、一晩過ごしたんです。焚火しながらみんなで歌ったり踊ったりして、あのときにメンバー同士の距離がぐっと縮まった気がします。ただ、気温が12度ぐらいまで下がるので寒いんですよ。防寒着を持ってくればよかったと思っていたら、インドネシアの先生はしっかり着こんでいて。事前に教えてよって感じでした(笑)」
----他の学生たちの様子は?
山南「ボゴール農科大学はインドネシアでトップレベルの大学で、農業分野では世界的に有名な大学なんですよね。みんな課題をスマートにこなして、楽しむことに全力を傾けているのが印象的でした。私たち日本人が不安でいても、『楽しむことが一番だよ』って言って、プレゼンの前夜も国ごとのパフォーマンスを披露するパーティーがあったのですが、そのときも『あとは僕たちがやっておくから、あなたはちゃんと寝たほうがいいよ』と。ありがたかったです」
----発表はどうでしたか?
山南「私たちのグループでは、初日のうちにどういう方向でまとめていくかの見通しを立てて、フィールドワークのたびに、問題点や感じたことをGoogleのスプレッドシートに入れ、みんなで意見を集約していきました。教育の普及や資金的な支援の充実といった課題を整理して発表して、私もプレゼンターをやらせていただきました。グループはプレゼンター賞をいただくことができました」
----おめでとうございます。全体としての感想は?
山南「楽しかったですね。水道が不安定だったり、寮の部屋にはヤモリがいたりして、日本の清潔感が恋しくなることもありましたが、最終日は大号泣でした。
大学で研究室に入ると、そこに閉じこもってラボワークで、自分の関係性が閉ざされていたと感じます。私自身は内気なところがあったのですが、海外に行って、下手ながらも自分の思ったことを喋り、それが伝わると嬉しいですし、同じ課題に向かって悩みながら一緒にやっていくという経験から、多くのことが得られました。現地で出会った学生たちとはインスタでつながったので、『今何してるの?』という感じで気軽に会話してます」
(取材?構成:茨城大学広報室)