ダイバーシティの推進に関するFDを開催
―研究から見えてくる多様性とは?
1月24日、ダイバーシティ推進室?全学人事委員会主催の「大学におけるダイバーシティの推進に関するFD」が実施され、対面?オンラインで約100名の教職員が参加しました。
本FDは、ダイバーシティ推進に対する学内の意識啓発を図り、教育や研究面におけるダイバーシティの向上を進めていくことを目的として実施されたもので、本学としてはじめて開催。今回は、大学組織や取組みの現状と課題を共有するとともに、多様な分野の教員たちが自身の研究をとおして見えるダイバーシティについて報告をおこないました。
開催にあたり、ダイバーシティ推進室の佐藤裕紀子室長(教育学部教授)は「大学組織のダイバーシティの充実によるガバナンス強化が求められてきている。すべての構成員のパフォーマンス最大化に向け、今日は特に組織の中の女性比率の問題にフォーカスして議論したい」とそのねらいを話しました。
本学では女性教員?外国人教員の採用増の目標値を掲げ施策を講じており、その比率は年々向上してきています。大学入学前の中高生、在学生、教職員らに向けた各種取組みや、高等学校での座談会、ロールモデルとなる女性研究者との交流イベントを実施しているほか、出産?育児や介護といったライフイベントに対応した制度も設け、教職員の仕事と家庭生活の両立を支援しています。さらに今年度からは、次世代の若手?女性研究者育成支援として、修士?博士課程の学生を対象とする研究スキルアップのための経費補助で女性優先枠を設けるなど、取組みや制度の充実を図っています。
ダイバーシティ推進室の糸賀充副室長は「多様性(ダイバーシティ)の理解によって、教職員がアンコンシャス?バイアス(偏ったものの見方?思い込み)に気づき、ジェンダー平等の実現につながれば。学生の窓口となる職員の意識醸成?育成にも努めていく」と今後の期待と展望を述べました。
続く報告セクションでは、本学の各教員がそれぞれの研究内容とダイバーシティのかかわりについて報告しました。
教育学部障害児教育教室の田原敬准教授、井口亜希子助教は、聴覚障害を対象とした研究からみえてきた多様性について報告。田原准教授は、日本は聴覚障害や聞こえづらさに対するアクションが遅れており、特に子どもに対する支援が十分に整っていないと指摘する一方、近年は国や自治体による聴覚障害児?者の教育制度や医療?福祉制度を整える機運が高まりつつあると話します。また、田原准教授は「子どもたちの得意なこと、苦手なことを見つけて、根拠に基づいた教育?支援の在り方を考えるための研究をしている。その研究結果を、たとえば補聴器の機能改善に役立て、さらにヘッドホンなどに技術を応用することで、多様な人たちのQOLを高めることができるのでは」と話しました。
井口助教は「手話は音声言語とは異なる視覚的な言語であり、手話を使用する聴覚障害者(ろう者)は言語的マイノリティーととらえることができる。聴覚障害児の手話の言語獲得に関する研究は、ヒトの普遍的な言語獲得のメカニズムの解明につながるだろう」と述べました。また、田原准教授の報告にも触れ、両者の報告を「聴覚障害を対象とした研究の知見が、当事者のみでなく、社会をより良くすることへもつながる」と締めくくりました。
農学部の北嶋康樹准教授は「生物多様性」をキーワードに講演。食料、水、気候の安定といった私たちの暮らしを支える生物多様性の恵みである「生態系サービス」を保つためには、種の多様性を確保することが重要と指摘しました。北嶋准教授は「多様性を保全することは我々自身を守ることにつながる。職場のダイバーシティも同様ではないか」と話しました。
家族社会学、人口学を専門とする人文社会科学部の笹野美佐恵講師は、世界各国の大学における構成員のジェンダー差に関する統計などを紹介。日本の研究者に占める女性の割合は15.9%(内閣府「男女共同参画白書令和3年」)で、他国に比べて著しく低い割合となっていることを挙げ、「高等教育を受けた先にどのような職につけるのかが見えないと、学生は目標を持てない。多様な教員が増えれば多様な学生が集まってくる。女性のロールモデルを示していくためにも、高等教育機関である大学が女性教員の比率を上げて次世代を育てていく必要がある」と提起しました。
後半の議論セクションでは、4人の報告者に菊池あしな理事(ダイバーシティ?国際?SDGs担当)が加わり、佐藤ダイバーシティ推進室長の進行のもと、特に大学組織における女性比率向上についての認識や課題をめぐって議論が交わされました。
この中で佐藤室長は、家庭科の教科書づくりに女性研究者が多く関わるようになってからの「家庭」を捉える記述の変化を例に挙げ、「組織に女性が増えていくことで知の体系自体が変化する。そうであれば、知の創造の拠点たる大学のダイバーシティの充実は不可欠ではないか」と語りました。それに対し、笹野講師は「そのとおりだ」と賛同した上で、「女性が増えることによって『競争力が上がる』『研究のイノベーションが起きる』といったメリットだけでなく、人権、ジャスティスの問題として捉えることが大事」とも指摘しました。
また、サバティカル制度を利用してデンマークの研究機関に滞在した田原准教授は、「デンマークでは理系の分野でも女性の研究者が多く、夫婦で協力しながら子育てと仕事を両立させている点が印象的だった。男性を含む育休の仕組みはデンマークも日本もあまり変わらないが、マインドセットが違うのだろう。仕事量を見ても日本は多すぎると感じる。休みの日は休んで心の余裕をもち、誰かが抜けてもうまく補填できるような職場環境をみんなでつくることが大切ではないか」と語りました。
他方で、議論においては、クオータ制のような数値目標を伴うトップダウンの施策が必要という意見も出てきました。そうした仕組みについて、北嶋准教授は、「採用で女性を優先するのは不平等だと思っていたが、今回のFDに取り組む中で、むしろこれまでの採用の環境が不平等だったのであり、まずはそれを公平にしようとしているのだと学んだ」と吐露しました。北嶋准教授のこのコメントに対し、佐藤室長は「心の中でガッツポーズした」と述べ、「まさにそうした気づきを得てもらいたいという思いで企画したFDだったので本当に良かった」と今回のFDの意義を強調しました。
一連のプログラムを終え、太田寛行学長は「学生、教職員など目に見える構成員だけを考えがちだが、附属幼稚園の子どもたちや本学を訪れる海外の人なども含めて、キャンパスのダイバーシティを捉える視点が大事」とコメント。その上で、「組織は縦割りをつくりたがり、楽なルーティーンワークに陥りがち。壁を壊してイノベーションに取り組めるかは、みなさんがどれだけ発想してくれるかにかかっている。意識変化を起こさなければ何も生まれない」と強く呼びかけました。
(取材?構成:茨城大学広報室)