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「海の中の見えない波の動きから地球の熱や物質の循環を解明したい」
―【インタビュー】地球?地域環境共創機構 増永 英治 講師

 茨城大学の多様な教員の研究愛にフォーカスする不定期掲載コラム「研究に恋して」。
 今回は海洋物理学の研究者として1年間のうち1か月間は海に出て海の内部の波を観測しているという地球?地域環境共創機構(GLEC)増永英治講師に、研究?産学官連携機構(iRIC)の間宮るいURAがインタビューしました。

―簡単に説明するとどんな研究といえますか?
 地球規模で起きている物質の循環現象について、沿岸海域の「波」や「渦」といった現象に着目しながら、海洋観測や数値モデリングの技術を用いて日々調査?研究活動を進めています。この研究は、地球環境を司っている熱や物質の循環の解明に繋がります。ここでいう「熱」とは厳密にはエネルギーですが、皆さんが日頃感じている暖かいとか寒いとかといった感覚と思っていただいて大丈夫です。春は快適な気候で、夏は暑苦しく、冬は凍えるように寒いというように地球環境は変化していて、この気候を支配しているのが地球環境における熱や物質循環です。同様に海洋においても大規模な熱やが発生していて大気の現象と相互に関わり合っています。

―波の種類にもいろいろあるようですが、どんな波を研究しているのでしょう?
 皆さんは「波」といった時に何を思い浮かべますか?葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」のような水面で発生する「水面波」を思い浮かべる人が多いかと思います。水面波は、ご存じの通り、大気と海水の境界で発生する波のことです。一方で、私たちの研究室では波の中でも「内部波」という、水面ではなく海の中に発生する波を対象にしています。目には見えない波なのであまり馴染みはないかもしれないですが、海の中では水温が急激に変化する「水温躍層」という境界面に沿ってとても大きな波が世界中を伝播しています。この内部波が地球全体の循環を解明する上でとても重要であるといわれているものの、私たちの目には見ることができないので現象の解明がなかなか進んでいません。

namiura.jpg また、波に加えて「渦」の現象にも着目しています。地球環境中には台風に見られるような多様な渦が存在していて、海洋中にも大小様々な渦が存在しています。下のアニメーションは、東日本南岸の水温を示しています。強い黒潮の流れや伊豆諸島の島々の周りに細かな渦現象が見られると思います。これらの渦や内部波が海洋中の熱や物質の流れに強く関わっているのです。


―海の中の波や渦に着目して研究をすることで何が分かるのですか?
 海の中でどのように水が混ざり合っているかを明らかにすることができます。これは冒頭で述べた、暖かいや寒いといった気候の変化のようなもので、海の中での水温の分布を決定付ける重要な現象です。もちろん水温(熱)だけでなく、波や渦によってさまざまな物質の分布に影響を与えています。内部波は、海洋循環や生態系における栄養塩の輸送などに重要な役割を果たしています。特に、内部潮汐と呼ばれる潮汐によって発生する内部波は、沿岸海域のエネルギー、熱や物質の流れに非常に強く貢献しています。海洋の水温は地球の気象現象に直接的に影響しているため、気候変動による地球環境の変化を把握することにもとても役立つ研究です。
 それらの影響も調べるために、私たちの研究室では、観測船で海に出て海洋観測を実施したり海洋シミュレーションを行なったりして、研究を進めています。短期や長期の海洋観測などさまざまですが、実は年に1か月程度は調査で海に出ています。

画像2.jpg

IMG_1392.JPG 観測の様子

―年間1か月も海洋観測に!それ以外の期間はどのような研究活動をされているのでしょうか?
 海洋観測などの現場にばかり出ているという印象を持たれるかもしれませんが、実際には研究室に引きこもって観測データや数値計算データの解析をしていることがほとんどです。この解析作業というのは「物理」というよりは「情報処理(プログラミング)」といったところでしょうか。論文で用いている図や先に紹介したアニメーションも、データをプログラミング処理で解析して図化しています。研究に時間が多く割ける日は、一日中コーディングしている日もあります。

画像4.jpg 研究室のデスクの様子

2022年度は茨城大学のサバティカル制度を利用してカリフォルニアにある世界最古の地球科学と海洋の研究所であるスクリップス海洋研究所に滞在していたそうですが、現地ではどんな研究を?
 スクリップス海洋研究所はカリフォルニア州サンディエゴに位置しています。地理的に毎日晴れているところで、滞在している間も「晴れているだけでストレスを感じない」というのを体感してきました。この地域がずっと晴れているのは、まさに海洋や大気の物理現象が関係して作り出す気候のおかげなんです。
 スクリップス海洋研究所ではMarine Physical Laboratory(海洋物理研究室)のMultiscale Ocean Dynamics グループに訪問研究員(Visiting Researcher)として約10ヵ月間滞在し、Matthew H. Alford教授と共同研究をしていました。滞在中は、この海洋研究所がある南カリフォルニア沖の急峻な大陸棚海底峡谷であるラホヤキャニオン付近の海洋で、峡谷周辺の内部潮汐の動態(内部潮汐の発生、伝播、消散など)を対象に海洋観測と数値モデリングの研究活動を行ってきました。滞在先のプロジェクト(Turbulence in the La Jolla Canyno Project)の研究員として参画し、今でも共同研究を続けています。海の中で特異な内部潮汐によって特殊な流れの波が起きるのですが、その波が海底渓谷内でどのように変化し、今はラホヤキャニオンで観測されたデータを解析を行なっており、海の中で断続的に発生する強い流れ(乱れ)の現象がどのようなプロセスで発生しているのかを明らかにしようと研究を進めています。もちろんカリフォルニア沿岸の研究だけでなく、日本沿岸の黒潮や潮汐による流れ、霞ヶ浦における水循環についての研究も継続的に進めています。

サンディエゴラホヤキャニオン周辺の内部潮汐(色は等水温面の鉛直振幅を示す)


 壮大な海洋の物理構造の解明に挑む増永先生ですが、これまでの研究成果が評価されて、2022年には日本海洋学会で岡田賞という35歳以下の優秀な研究者に与えられる賞を受賞しています。それを受けて2023年度の茨城大学学長学術表彰奨励賞も贈られました。また、昨年のスクリップス研究所滞在中の研究成果はすでにアメリカ気象学会で論文発表をしています。
 海洋の物理現象は気候変動とも密接に関わっており、総合気候変動科学の構築に力を入れる茨城大学としても増永先生の今後の活躍にますます期待しています。

(インタビュー:研究?産学官連携機構 間宮 るい)

studymylove.jpg ときには何十年、何百年後の未来を展望しながら学問、真理を追究する研究者たち。茨城大学にもそんな魅力的な研究者がたくさんいます。
 研究者自身による寄稿や、インタビューをもとにしたストーリーをお楽しみください。
 【企画:茨城大学研究?産学官連携機構(iRIC)&広報室】