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令和5年度卒業式?学位記伝達式を挙行しました

 3月26日(火)、茨城大学の令和5年度卒業式?学位記伝達式を挙行し、2,086人に学位記や修了証を授与しました。
 卒業式は二部制とし、それぞれ茨城県武道館にて実施しました。

令和5年度卒業式 学長告辞

 本日、卒業式?修了式を迎えた2,086名の皆さん、卒業?修了おめでとうございます。コロナ禍での苦労を乗り越えて今日を迎えたことに対して、皆さんのこれまでの努力に敬意を表すると共に、心からお祝い申し上げます。そして、皆さんの学業と研究活動を支えてこられたご家族や友人の方々にも心からお祝い申し上げます。

 茨城大学は、今年、新制大学として創立75周年、さらに最も古いルーツ校である拡充師範学校の創設から数えて創基150周年という節目を迎えます。創立60周年の時を振り返れば、本学の行動指針として"茨城大学憲章"を制定しました。その大学憲章の教育に関して、3つのことを掲げています。
 一つ目は「人類の文化と社会や自然についての理解を深め、高い倫理観をもち、持続可能な社会と環境保全の担い手となる市民を育成すること」、二つ目は「豊かな人間性と幅広い教養をもち、多様な文化と価値観を尊重する国際感覚を身に付けた人間を育成すること」、三つ目は「専門知識と技能を修得し、自らの理想に基づいた将来設計ができる力と課題を探求し問題を解決する力を兼ね備えた人材を育成すること」です。
 この二つ目のことは、ウクライナに続いてガザ地区でも戦争が始まり、世界情勢の不安が深刻化している今こそ、最も大事な教育の観点であり、世界の人たちと、その教育の意義を共有し合い、戦争の早期終結を祈る次第です。
 大学憲章の制定から15年が経ち、我が国の社会は大きく変わりました。このような社会変化に対して、政府は「教育未来創造会議」を設置しました。その第一次提言は令和45月に公表され、そのなかで、「少子高齢化や第四次産業革命、グローバル競争の激化、地球温暖化といった様々な課題に向き合い、新たな価値を創造しながら、豊かな未来を切り拓いていくためには、一人一人の生産性を高め、生きていく力、柔軟な知を育むことが必要である」という基本理念を示しました。
 ここで、本学の大学憲章を見直せば、第一次提言の基本理念にある"生きていく力、柔軟な知を育むこと"は、大学憲章にある市民と人間の育成のあり方に合致するものです。また、"一人一人の生産性を高める"ことは、大学憲章で掲げる人材の育成が基本です。このように、私たちの大学憲章に基づく教育は、どんなに社会が変わっても意義があると、私は再確認しています。そして、胸を張って皆さんを送り出し、皆さんの活躍を期待するしだいです。

 さて、卒業の日は、次なる目標に向かって、熱き情熱を心に秘めた方が多いかと思います。そこで、その情熱のあり方について考えたことを述べます。 まず、その糸口はルネ?デカルトの哲学です。もう50年位前になりますが、フランス文学者の桑原武夫先生とデカルト研究者の野田又夫先生は、アランの著作「デカルト」を共訳した本を出版しています。その内容のエッセンスを紹介する裏表紙にある文章は、研ぎ澄まされており、思考を刺激する言葉で満ちています。その冒頭は、「単なる情熱は醜い。すべての芸術は儀式、すなわち情熱の統制であり、道徳は身体の統制である体操とともに始まる」です。
 この言葉にめぐり会った20歳代の頃、情熱を傾けることに漠然とした尊さを信じていた私には、醜い情熱などあることは考えもつきませんでしたし、情熱の統制とは何なのかよく分かりませんでした。
 後になって、デカルトに立ち返り、その著作「方法序説」の中に、その手がかりを探してみると、情熱の統制を連想するような例示をみつけました。その一つは、「ただ一人の建築家が設計し完成させた建物は、もともと別の目的のために建てられた古い壁を使うなどして、多くの人が修復しようとした建物よりも、より美しく、より整っているのがつねである」です。
 私は、桑原先生と野田先生が、デカルトの哲学から抽出した「情熱の統制」とは、この「一貫した設計を持って完成させる」ことではないかと考えるのです。デカルトは、さらに学問についても言及しています。
 「どんな証明もしていない学問は、多くのさまざまな人の意見が少しずつ寄せ集められたものであるから、良識を備えた一人の人間が、目の前に現れてくるものについて自然のままになしうる単純な推論ほどには、真理に近くない。」

 皆さんは、この例示をどう理解しますか?

 これに関連して、私は物理学者アルベルト?アインシュタインのある言葉を思い出しました。
 それは、「何が観察可能なのかは、理論によって決まる」です。この言葉の解釈として、ガリレオ?ガリレイが生きた時代を考えてみましょう。その当時、望遠鏡で木星を観察した人は何人もいたと思います。ただし、木星も地球と同じように太陽のまわりを周回している惑星であるという理論を持って、観察したのはガリレオだけでした。そこに、真理に迫る理論を持って観察に臨む意義があり、理論を持つことが観察という行為への情熱に必要な統制だと言えるでしょう。
 20歳代の頃の私は、肉眼では見えない微生物の能力の奥深さに興味を持ち、土壌微生物学の研究室に入りました。そのとき、先生が、研究室の新メンバーたちに向けて、「一緒に読もう」と差し出してくれたのが、デカルトの「方法序説」だったのです。99%がどんな生き物か全く分からない土壌微生物の世界に挑むに当たって、理論なき観察や単なる情熱に惑わされずに、学問に向かうデカルトのような決心を持とうと、先生は意図されたのでしょう。
 あれから50年後、今度は、私から皆さんに、新たなスタートを切る皆さんに、自分の情熱は醜くないか?と問いたいと思います。

 以上で、茨城大学令和5年度卒業式の告辞といたします。
 本日は誠におめでとうございます。

令和6326
茨城大学長 太田寛行

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第1部(茨城県武道館)
日時:令和6年326日(火)10:00
対象:工学部、農学部、理工学研究科博士前期課程、理工学研究科博士後期課程、農学研究科

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第2部(茨城県武道館)
日時:令和6年326日(火)14:00
対象:人文社会科学部、教育学部、理学部、人文社会科学研究科、教育学研究科、特別支援教育特別専攻科

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