茨城大学×日立市かみね動物園×千葉市動物公園が新ジャーナルを創刊
―創刊記念シンポで大学と動物園の連携のあり方を議論
茨城大学、日立市かみね動物園、千葉市動物公園の3者がこのたび、新しい学術紀要「ZOO SCIENCE JOURNAL(ズー?サイエンス?ジャーナル)」を創刊しました。3月25日には茨城大学阿見キャンパスにおいて創刊記念シンポジウムも開催しました。
茨城大学と日立市かみね動物園は、2015年、茨城大学の研究支援を受ける形で共同での研究?教育の活動を本格的に開始しました。2020年からは「ZOO SCIENCE HUB(ZSH)」という名前でプロジェクトを発足し、千葉市動物公園も加わりました。これまで、茨城大学の学生?教員が動物園を研究フィールドとして活用する中で飼育員や獣医から直接指導?補助を受けたり、動物園が抱える課題をめぐって一緒に調査を行ったりするなど、共同での活動を展開してきました。
シンポジウムの前半、紀要の趣旨を説明した茨城大学農学部の小針大助准教授は、「動物園を環境教育や自然科学の研究の場として活用する取り組みをともに進める中で、研究成果だけでなく、そこへ至る準備や調査方法に関する飼育員さんの知識や経験に興味深く重要なものがたくさんあると感じていました」と述べました。そして、「それらが表になかなか出てきておらずもったいない。動物園がただのレジャー施設ではなく自然科学の拠点として地域に根付いていくためには、こうした知識や技術こそ記録に残し、公開され、検証されなければならない」と、今回の創刊のねらいを説明しました。
本シンポジウムでは、公益社団法人日本動物園水族館協会の村田浩一会長がゲストとして基調講演を行いました。村田氏は、動物園をめぐる役割の変化や国内外における動物園での研究活動の沿革を紹介。その上で、「最近は大学と動物園が覚書を結んで共同研究する例も多いが、歯車がかみ合わないと動物園は単に利用されて終わってしまう」という危機感を示し、「そうならないためには、動物園が自らの研究力を高めなければ」という見解を述べました。そのためにも、動物園の関係者ひとりひとりが、「豊かな地球を未来へ引き継ぐために、動物園から社会を変えていくのだといった大きな目標をもたなければならない」と、参加者に訴えかけました。
シンポジウムの後半では、茨城大学大学院理工学研究科(工学野)の北野誉教授、日立市かみね動物園の獣医師?川瀬啓祐氏、千葉市動物公園研究員の中山侑氏が、自身の取り組みを例に、動物園における研究と記録、伝達についての考えを報告しました。
このうち川瀬氏は、同園の飼育員?獣医師を対象としたアンケートの結果を紹介。そこではすべての職員が技術?知識の引き継ぎに取り組んでいることが確認された一方、「ハズバンダリートレーニング(受診など健康管理に関するトレーニング)や環境エンリッチメント(動物にとっての生育環境を豊かにする諸活動)の知見の引き継ぎが充分にできている職員はまだ半数程度」という課題が見えたということです。それを受けて川瀬氏は、「日々の飼育日誌には環境エンリッチメントの失敗例も記されている。それを個人の記憶や日誌に留めておくのはもったいない。現場が試行錯誤や努力の結果が明文化されて全世界に発信されることが、動物園全体の飼育技術の向上につながる」として、紀要の今後の展開にも期待を寄せました。
また、中山氏は、動物園が「動物を通じて学ぶ"生涯学習の場"」であるという点を強調。多面的で質の高い学びを実現するためには、「調査や研究の結果だけを伝えるのではなく、既報の情報や課題?背景なども上手に伝えることが大事」と話、その観点に立った同園内外でのサイエンスコミュニケーションの実践例を紹介しました。
最後の総合討論では、北野教授が手がけるDNA分析の研究が動物園の現場でどのような意義を持ち得るのかという視点や、動物園が研究者に「搾取」されるような構造を避けるためのポイントなどをめぐり、活発な議論が交わされました。
議論の進行を務めた小針准教授は、「研究のマッチングは大変だが、なんでも話を聞けるような関係を長い時間をかけて構築していくことが大事。他の地域でもできる。地域のコネクション、資源を発見しながらつながりを作っていく活動が今後も広がっていけば」と、将来へ向けた展望を示しました。
「ZOO SCIENCE JOURNAL」は、ZOO SCIENCE HUBのWEBサイトで誰でも無料で閲覧できます。
(取材?構成:茨城大学広報室)