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アントレプレナーシップ教育プログラム、初の修了生2人が体験報告
-ネクストフェーズセッション

 茨城大学アントレプレナーシップ教育プログラムのスタートから3年半が経ち、このほど初の修了生を輩出しました。628日(金)、社会連携センター&オンラインで行われたシンポジウム「ネクストフェーズセッション」では、2人の修了生が自身の体験を語るとともに、ゲストを交えたトークセッションに臨みました。

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 「アントレプレナーシップ」はよく「起業家精神」と訳されますが、茨城大学のアントレプレナーシップ教育プログラムのWEBサイトでは、「私たちの生きている社会をよりよくするために、失敗を恐れずに果敢に挑戦する精神です。それは、起業家になるだけでなく、どのような道に進んだとしても求められるものです」と説明されています。

 茨城県との連携によって茨城大学アントレプレナーシップ教育プログラムがスタートしたのは、2021年の秋。授業で経営やマーケティングといった科目を学ぶとともに、国内外のアントレプレナー、イントレプレナー(組織内で新たなプロジェクトを興す人)の話に触れ、さらにビジネスコンテストへの参加やインターンシップなどの実践を通じて学びを深めます。

 スタート時、「アントレプレナーシップ入門」の科目は150人以上の学生が履修しました。その後、アントレプレナー型インターンシップなどの実践活動までコンプリートし、見事、プログラムの初の修了者となったのが、農学部の北島あゆみさんと人文社会科学部の倉茂友杜さんという4年生2人です。シンポジウムの冒頭、挨拶に立った太田寛行学長は、「修了生をしっかり送り出せたことは嬉しく、まさにネクストフェーズにつながるものだ」と2人を称えました。

DSC_5578.JPG 「修了生を送り出せて嬉しい」と語る太田学長


 今回の「ネクストフェーズセッション」は、この2人の報告をもとに、それぞれの学びやキャリア、さらにはプログラムの今後について公開で議論をするものでした。

 北島さんは茨城県出身。植物を育てることと道の駅めぐりが趣味で、「農業をやってみたい」という想いを強くもって農学部への進学を目指す中で、茨城大学でアントレプレナーシップ教育プログラムが始まることを知り、興味を持ったといいます。

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年次はオンラインの活動が多く、そこでのチームワークに苦戦したそうですが、その後、ビジネスプランコンテストに2度もチャレンジ。農業や食についてのプランを発表したものの、土地の確保、莫大な初期費用、収支の予測など、目の前に立ち現れる課題は困難なものばかり。それでもプログラムを続け、3年次のアントレプレナー型インターンシップでは、茨城NPOセンター?コモンズにて約1か月間にわたる業務を経験。その後、バナナの市場分析を干しいもに置き換えて原価計算に挑むレポートをまとめ、プログラムを修了しました。

 北島さんは、修了後も環境系のNPO団体の活動に参加するなどして、「『自分の仕事に誇りをもつこと』『仕事に誇りを持った仲間とともに働くこと』という、自分が働く姿についての目標ができました」と語りました。「就職が学生時代のゴールではないということを知りました。大人になってからも考え、学び、行動することができるし、大人になってからも将来の夢を持てるのだとわかりました」と語る北島さんの、自信に満ちた表情と語り口が印象的でした。

DSC_5623.JPG 発表に臨む北島さん(左)と倉茂さん

 もうひとりの修了生、倉茂さんは千葉県出身。学部では情報デザインをメインに研究しています。アントレプレナーシップ教育プログラムへの参加の動機について、「高校生のころからブログビジネスを手がけていて、就職以外の人生の選択肢に強い関心を持っていました」と語ります。経営者などの話に触れる入門科目は、イノベーションやオリジナリティについての内省を深めるきっかけになったと振り返ります。

 そして茨城県学生ビジネスプランコンテストでは、関心をもつメタバース/教育/広告を組み合わせたアイデアで、3つの賞を受賞しました。さらに課外活動として、茨城県が実施する「IBARAKIドリーム?パスAWARD」に関わり、参加する高校生たちへのコーチングにも取り組みました。北島さんと同じく茨城NPOセンター?コモンズで活動したインターンシップでは、自身の活動に「ソーシャルビジネス」というキーワードが加わったと話します。 

 他にもさまざまな活動に参加し、「教育や『人財』育成に関する社会活動を解決したい。常識的で教科書的な『正解』社会を崩すことが、先行き不安な社会を変えていく」という想いを強めた倉茂さん。今後も教育に関わる事業に挑戦していきたいと語りました。

 トークセッションは、プログラムを担当する間中健介講師の進行のもと、北島さん、倉茂さん、ゲストの中川健朗さんが、フラットな雰囲気の中で意見を交わしました。

DSC_5633.JPG 明るいトークで場を和ませたゲストの中川健朗さん

 中川さんは国家公務員として科学技術行政や教育行政に長年従事し、国際宇宙ステーションの運用に向けた国際関係の調整や、スーパーコンピューターの開発といった大きなプロジェクトにも関わってきた。定年退職後、さらに新しい挑戦をしたいと、情報?システム研究機構で働くかたわら、ルールメーキングのベンチャーでも活動しています。中川さんは、これらの活動をスピーディーに振り返りつつ、北島さんの言葉に触れ、「誇りをもって働くこと、夢を持つことについては、私もみなさんに負けないと思う」と、お名前のとおり「健」やかかつ「朗」らかに語り、会場を沸かせました。

 アドリブで繰り広げられた4人のトークは、率直な雰囲気の中、学びの内容やプログラムの価値が次々に言語化されていきました。その中から、アントレプレナーシップ教育において大切だと思われる2つのポイントに注目して振り返ります。

 一つめは、環境づくりです。

 倉茂さんは、プログラムを通じて、「経営者、事業をしている方と出会い、話を聞く機会がたくさんありました。そこから学びを得て、気付いたら自分もやってみようという形でとんとん拍子に話が進むことがありました」と言います。その経験から、「思いついたときに動けるかというマインドには、環境の要素が大きい。動かない雰囲気の人に囲まれるとなかなか動けないけれど、周りが社長ばかりだと自分も社長になってしまう。自分が一歩踏み出せるような、アントレプレナーに囲まれた環境をどうつくれるかと言うのがひとつのポイントだと思っています」と述べました。

 この点については間中講師も、「若者にアントレプレナーシップが根付かないと大人が嘆いている状況はちょっとおかしいと思っています。若い人にチャンスを与え、環境をつくらなければいけない」と指摘し、大学だけに留まらない社会全体での環境づくりに期待を示しました。

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 二つめは、生きていく上でのビジョンをもちつつ、それを具現化する中での「方向転換」を恐れないことです。

 中川さんから、収益の確保についてどのようなことを考えたか問われた北島さんは、こう答えました。

 「農業で稼ぐためには、大規模化して値段を下げるか、あるいは差別化して高く売るかの二通りが考えられます。私自身は、ブランド化とかをがんばらなくても、普通の農業でそれなりに稼げるようにならなければ、農業は盛り上がらないのではないかと思っていたのですが、それは難しいのということを痛感し、今も悩んでいるところです」

 しかし、「最終的には、農業への挑戦の時期は今でなくても、今後たくさんあると気付くことができました。もうちょっとお金のことを学んだり、信用されるような仕事をしたり、農業界で顔が広くなるような仕事をして、またチャレンジしたいです」と語った北島さん。この「方向転換」を、中川さんはこう称えました。

 「アントレプレナーシップ教育のプログラムというと、『卒業生が何人ベンチャーをつくったか』といったような指標ですぐ評価しようとしがちだが、それは違うのではないかと思っていました。将来のビジョンをもち、これからの自分の人生を生きる上での確信がもてたという4年間が、素晴らしかったと思う。私もがんばろうと思いました」

 年齢や立場は関係なく、夢を持った人たちが集い、さまざまな知識や気付きを得る中で、ときには「方向転換」もしつつ、しっかりと前に進んでいく。そうした茨城大学アントレプレナーシップ教育プログラムの要諦が、この報告会の中でも垣間見られました。修了生2人の門出を応援しています!

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(取材?構成:茨城大学広報?アウトリーチ支援室)