貝殻で補強する「粘り強い河川堤防」 実規模法面で越水時侵食抑制効果を検証
国交省の技術開発目標をクリア 防災?環境面に加えCO2の地中貯蔵にも貢献
茨城大学大学院理工学研究科/応用理工学野の小林薫教授と飛島建設株式会社のチームは、国土交通省が技術開発目標として条件提示している越水に対応する「粘り強い河川堤防」の検証を目的に、破砕貝殻をシェルネット型の侵食抑制工として堤防裏法面に活用した実規模法面による越水実験を行い、技術開発目標をクリアし、越水時侵食抑制効果を有することを確認しました。
開発の背景と概要
近年、線状降水帯に伴う豪雨災害が激甚化?頻発化し、河川堤防の決壊が増加しています。令和元年台風19号では全国の142箇所で堤防決壊が発生し、その86%は越水による侵食が主要因であると報告されています。国土交通省は、越水後の堤防決壊までの時間を少しでも長くし、避難までの時間を確保するための「粘り強い河川堤防」の技術開発目標として、越流水深0.3 m、越流時間3時間を提示しています。
越水時の堤防侵食等への対策としては、全面被覆型の堤防や堤防の嵩上げが考えられます。しかし、わが国が有する河川は長大で、対策延長が長くかつ地方自治体管轄の河川も多いため、経済面や用地面から前記の対策は現実的ではありません。そこで、経済面や用地面を考慮した結果、対策範囲が小さい表面被覆型堤防が有効と考えました。
今回の実規模法面による越水実験では、越流流速3 m/s未満の地点で破堤した個所がなかったという報告2)を踏まえて、越流水深0.3 m、越流時間3時間に加えて、越流流速3 m/s超を満足する条件で、傾斜水路に敷設した表面被覆型のシェルネット型侵食抑制工における破砕貝殻層の越水時侵食抑制効果の確認を行いました。
実規模法面による越水実験の概要と成果
今回の越水実験の概要を図3に示します。堤防裏法面を模擬した傾斜水路は、長さ4.0 m、幅0.4 m、高さ0.6 m、勾配1:2.0です。また、傾斜水路とタンク2の連結部の長さ0.5 mあり、実験装置の傾斜水路長は合計4.5 m(4.0 m+0.5 m)、堤高約2.2 m相当となります。
本実験では、越流水深0.3 m、越流時間3時間に加えて、越流流速3 m/s超も実験条件としているため、ミリ波レーダを用いて、傾斜水路全長に渡りリアルタイムに、かつ、正確な越流流速を測定しました。図4に、後述するケース1-1(図5(a))で越流水深30 cm時の流速分布図を示します。傾斜水路上部の越流流速は4.5 m/s程度ですが、加速した越流流速は下部付近では最大6.5 m/s超を確認しています。
今回の実験では、図5に示す3タイプの侵食抑制工で越流開始から3時間後の、破砕貝殻層の越水時侵食状況を目視および非接触変位計の実測により確認しました。
越流水深0.3m(ケース1-1)での越水実験の状況を写真2に示します。
図6に、越流3時間経過後に破砕貝殻層表面高さの変化量を計測し、侵食率(貝殻層厚0.1mに対する値)として表した結果を示します。同図から分かるように、シェルネット型侵食抑制工(ケース1)は、越流水深0.3 m、越流時間3時間に加えて、越流流速3 m/s超の条件でも侵食率が最大でも20%程度であり、表面被覆型として越水時の侵食抑制効果が十分得られており、「粘り強い河川堤防」の技術開発目標をクリアすることを確認しました。
今後の展望
越水に対するシェルネット型侵食抑制工における破砕貝殻層は、通常時には上部に位置する覆土層との保水性の違いを活かしたキャピラリーバリア層を構成し、堤防内への雨水浸透抑制効果を発揮します。加えて、ホタテ貝殻の重量の約43%は、CO2であることから、法面浅層部に埋設することでCO2の地中固定化も可能な材料です。今後、破砕貝殻層内の浸透流や吸出し等による負圧の影響を考慮したシェルネット型侵食抑制工の設計?施工および維持管理に関する具体的な検討を行い、地球規模で進行している海洋酸性化の抑制?防止対策への貝殻活用?展開も視野に入れながら、実現可能性を高めて早期実用化を図っていきます。