原子科学研究教育センター、東海村でキックオフシンポジウムを開催
-地方大学としてのコミットメントとは
茨城大学原子科学研究教育センター(RECAS)のキックオフシンポジウムが、7月19日、東海村産業?情報プラザ(アイヴィル)多目的ホールで開催されました。当日は文部科学省の清浦隆大臣官房審議官、茨城県の岩下泰善副知事、東海村の山田修村長、連携する研究機関である日本原子力研究開発機構(JAEA)や高エネルギー加速器研究機構(KEK)から来賓を迎え、安全?安心な革新原子科学の教育?研究基盤の確立を目指す同センターの使命を約100人の参加者とともに確認しました。
今年4月に開設したRECASは、「安全?安心な革新原子科学の教育?研究基盤の確立」を目指して、未来のエネルギー技術や原子?物質?生命の科学を融合的に研究する「原子科学」の推進と、その高度な知識と技術を持った人材の育成を目指す、先進的研究?教育拠点です。
「放射線安全部門」「次世代革新炉部門」「応用原子科学部門」の3部門と、社会のニーズを分析して組織横断型のプロジェクトを企画?立案する「社会/地域課題共考解決室」の1室で構成しています。
キックオフシンポジウムを開催した東海村は、日本で最初に原子の火が灯った地であり、大強度陽子加速器施設J-PARCなどの有数の原子科学施設を有しています。茨城大学も2006年、東海村にRECASの前身となるフロンティア応用原子科学研究センター(iFRC)を設置し、さらに2016年には大学院理工学研究科に日本で唯一の量子線科学専攻を開設、翌年には同専攻の研究?教育の拠点として東海サテライトキャンパスを整備しました。
シンポジウムの冒頭、挨拶に立った太田寛行学長は、「RECASは東海村が有する教育?研究のポテンシャルを最大限発揮できる共創の拠点です」と力強く語り、「私たちが掲げる、エネルギー問題をはじめとする様々な社会課題の解決を目指す新たな原子科学をつくろうという新たなストーリーに、地域からの応援をぜひお願いしたい」と呼びかけました。
来賓には、文部科学省の清浦隆大臣官房審議官(研究開発局担当)、茨城県の岩下泰善副知事、東海村の山田修村長、JAEAの門馬利行理事、KEKの花垣和則理事を迎えました。
このうち、文部科学省の清浦審議官は、「原子力発祥の地であるここ東海村、そして原子力の先端施設を有する茨城にあって、原子科学の人材育成、技術の開発?継承に挑戦していくアカデミアの拠点を構築していくことは大変意義のあることだと思う」と語りました。
また、東海村の山田村長は、「(原子力発電をめぐる課題について)学問?アカデミアとしてそこに触れてこなかった」というこれまでの印象を率直に吐露されました。その上で、今回、RECASを立ち上げ、そこに次世代革新炉部門や社会/地域課題共考解決室を設置したことについて、「産学連携が『マッチング』で終わりがちで、社会実装、社会貢献までいかないことも多い中で、スタートアップも担うような専門部署をつくったことにやる気を感じる」「地元の大学としてコミットしていくという決断は、大変な英断だと思う」と語りました。
シンポジウムの前半では、RECASの岩佐和晃センター長が、設立の経緯とビジョンを説明しました。この中で岩佐センター長は、2003年の茨城県サイエンスフロンティア21構想、2006年にiFRC設置に始まる茨城大学と応用原子科学?量子線科学の研究?教育の系譜を説明するとともに、大学全体として注力してきた気候変動の適応策?緩和策に関する研究?教育の歴史と現状も紹介し、大学内外の協力により気候変動やエネルギー問題を対象とする原子科学に果敢に取り組んでいく姿勢とRECASの構成を示しました。
後半では、福井大学附属国際原子力工学研究所 原子力防災?危機管理部門の安田仲宏教授が、「原子科学教育研究における地方大学の挑戦」と題した招待講演を行いました。
福井県の敦賀市も、原子力発電所や原子科学の関連機関を有する地です。安田教授は、あるとき敦賀市の職員から、「『原子力防災』といっても大学として上辺のことしか言わない。大学としての覚悟が見えない」と言われ、大きなショックを受けたそう。そこから協議が進められ、同市の原子力防災計画において、有事には福井大学がアドバイザーとして解決を図っていくということが、明確に記されることになりました。「それがスタートラインになって、大学と行政が一緒になって原子力防災関係のアンケートを市民対象に行うようなこともできるようになった」と安田教授は振り返ります。
その後も自治体や市民と協働した様々な取り組みを行っている安田教授。RECASに対しては、「大学がどれだけ地域を見てくれるのか、地域と話してくれるのか、というのが東海村の人たちの想い。(理工系だけでなく)人文社会科学系、教育系の学生も取り込んで、住民のニーズを基に、サイエンスコミュニケーションを進めると良いのではないか。原子力防災をキーワードにすると文理融合も実現できる」と提言しました。
最後はRECASの構想づくりに奔走してきた増澤徹副学長が登壇。増澤副学長は、RECASの設立とシンポジウム開催に至ったことについて関係者に謝辞を述べ、「安田先生の講演にあったように、防災の活動は地方大学の大きな社会貢献の柱になる。次の一手として、今回立ち上げた3つの部門以外に、防災関係の柱も立てていきたい」と展望を語りました。