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「暴れる気候」の影響を日本とマヤの古気候?考古学の研究で検証
―人社?青山和夫教授参加の大型プロジェクト始動 人類の持続可能な未来に貢献

 毎年のように起こる極端気象は、不安定な気候が慢性化し、災害が頻発する未来の到来を予感させます。そのような「暴れる気候」は、私たち人類の活動にどのような影響を及ぼすのでしょう。実は人類の長い歴史をひもとくと、かつて同じように「暴れる気候」に見舞われた時代がありました。その当時は人類にどんな影響があったのか。何万年前というスケールの過去の気象と人間活動を高精度で復元することで、未来の人類の「適応」に役立てようという壮大な研究プロジェクトが始まりました。

 「『暴れる気候』と人類の過去?現在?未来」と題されたこの研究プロジェクトは、2024年度科学研究費?学術変革領域研究(A)という大型資金プロジェクトに採択されました。代表を務めているのは、立命館大学古気候学研究センターのセンター長である中川毅教授です。6つのグループで構成されており、このうちの「マヤ考古?歴史班」というグループで、茨城大学人文社会科学の青山和夫教授がリーダーを担当します。

 820日に立命館大学東京オフィスで行われたプロジェクトの記者会見では、中川代表らが研究の背景とコンセプトを紹介しました。

 「気候変動」というと、現在の温暖化のように長い期間をかけて徐々に進行する事象や、「50年に1回」などと言われるような極端な気象がイメージされますが、中川代表は「それだけでは捉えきれない第3のモードがある」といいます。それは、気温が激しく上下したり、豪雨などが頻発したりするなど、息つく間もなく不安定に変化するような、「暴れる気候」といえる状態です。近年の極端気象の頻発化はその兆候かもしれません。

IMG_0032.JPEG 記者会見で「暴れる気候」について説明する中川代表

 実は「暴れる気候」は人類史上、過去にもあったと見られています。たとえば11万年から始まり、約1万5000年前に終わった最後の氷期は、寒冷と温暖が繰り返し、まさに「暴れている」状態が通常でした。その氷期が終わり、現在の間氷期に入った時期に人類が農耕を始めたというのは、「暴れる気候」の存在が文明に深刻な影響を与えることを示唆しています。

 来るべき「暴れる気候」に備えるため、私たちは過去の歴史からどれだけのことを学べるでしょうか。気候の頻繁な変化が人類にどんな影響を与えたかを知るためには、昔の気候情報の復元が不可欠ですが、それも数百年というスケールでは意味がなく、ひとりの人間の一生の中のイベントを捉えるような、1年あるいは1か月という単位での高解像度な情報が必要です。さらに、古気候学の知見だけでなく、その年代ごとの人間の活動も復元しなければなりません。それは考古学の領域です。

 困難をきわめるこれらの課題の解明に対し、近年きわめて有効なツールや条件が揃いつつあります。しかもそれらのアプローチで大きなアドバンテージをもつ地域が、実は日本とマヤ地域なのです。

 過去の気候の復元において大きな役割を果たすのが、湖の底に積み上がった特殊な地層です。プランクトンの死骸などが堆積することで1年ごとに年輪のように縞状に層が積み上がることから、「年縞」と言われます。この年縞に含まれる花粉や火山灰などの痕跡が、気候イベントを復元する手がかりとなるのです。

 中川代表の説明によれば、「世界最高品質」の年縞が、福井県の水月湖と、中米マヤ地域のペテシュバトゥン湖にあるといいます。それに加えて、人間の活動の記録の復元という観点からも、土器の細密な編年体系をもつ日本と、かつてのマヤ文明において正確な「マヤ暦」を有していたマヤ地域の2つは、きわめて最適な地域といえるのです。

 中川代表が「ドリームチーム」と呼んだ本プロジェクトは、陽イオン質量分析(PIMS)という次世代の年代測定手法を活用して高精度の年代測定を進める「年代班」、年縞を掘削してそれぞれの古気候の再現を進める「古気候班」、日本とマヤの考古学調査をそれぞれ担当する「日本考古班」「マヤ考古?歴史班」、それに全球の気候モデルを用いた分析を行う「気候モデル班」と、それらの変動による環境や生活への影響と適応を研究する「影響と適応班」の6つで構成されます。

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 このうち茨城大学の青山教授は、「マヤ考古?歴史班」のリーダーとして、マヤ文明の各遺跡におけるや発掘調査やライダー(航空レーザー測量)などをもとに、当時の人間活動の復元に取り組みます。

 記者会見(オンライン出席)で青山教授は、「2世紀頃と9世紀頃にマヤ文明の巨大な都市が衰退しており、そこには干ばつが影響していると言われてきた。ただ、その根拠とされているマヤ低地の気象のデータは、誤差が数百年というものであった。あるいはマヤ地域からは離れたベネズエラの年縞データが援用され、実はとんでもない(信頼性が低い)研究ともいえる。今回、水月湖より分厚いペテシュバトゥン湖の年縞からの復元ができれば、本当に干ばつが起こり、それがマヤの衰退に影響したのかについて、実証的に研究できる段階に至る。『ネイチャー』『サイエンス』というレベルの(権威ある学術雑誌に掲載される)成果になるだろう」と、意義を強調しました。

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 古気候学は長年、グリーンランドで収集されたデータに依存してきました。このチームがめざすのは、グリーンランドのデータと同様に、今後の研究の参照点となり、後続の研究を促し、新たな仮説にも応えられるような、新たな水準をつくることです。中川代表は、「おもしろそうな特定の現象を確かめにいく研究はいっぱいあります。しかしわれわれは、その特定のことを狙っているだけでは届かない世界を狙います」と力強く語りました。

「おもしろいのかおもしろくないかわからない時代も含めて、全部の時代を復元します。何が埋まっているかの全体像はまだ見えていません。思いがけないところを取りこぼさないレベルまでやりきるつもりです」(中川代表)

 新たなスコープで人類の過去?現在?未来を展望する野心的なプロジェクト。今後の研究の進展について、茨城大学でも今後も積極的に発信していきます。