2030年までに必要な施策は? 将来/現世代の両視点で考える
―水戸市&茨大GLEC&大阪大「フューチャー?デザイン?ワークショップ」
将来世代からの視点でいま必要な気候変動対策を考えるワークショップの最終回が、8月29日、水戸市役所で行われました。参加した水戸市職員の皆さんが、将来世代(2060年)/現世代(2024年)それぞれの視点に立って2060年の社会像や2030年までに必要な政策について考え、視点による議論結果の差異を考えました。水戸市、茨城大学地球?地域環境共創機構(GLEC)、大阪大学大学院工学研究科の原圭史郎研究室による共同企画です。(企画の経緯や初回の模様はこちら)
将来世代に持続可能な社会を引き継ぐための「社会の仕組み」をデザインし、実践する「フューチャー?デザイン」。中でも、将来世代の視点から現世代の意思決定を考察する「仮想将来世代」という仕組みが有効だとされています(参考:原研究室HP)。
今回のワークショップは、このフューチャー?デザインの考え方、手法が用いられました。GLECの田村誠教授と小寺昭彦講師、大阪大の原教授の3人の専門家が学術的支援を行い、複数部局の22課から集まった水戸市職員22人が4グループに分かれ、6月下旬から全5回にわたって議論を重ねました。
ワークショップは、カーボンニュートラルの達成度や都市構造から、社会の価値観やライフスタイルに至るまで、2060年の社会像を描写することから始まりました。このワークは初回と第3回の2回行われ、どちらも2020~2060年の出来事を想像しました。初回は現世代から将来40年間に何が起こるか、第3回では将来世代から過去40年間に何が起こったかを考え、年表に書き込みました。
写真を見れば一目瞭然ですが、初回と第3回とで書き込みの量や内容、具体性が全く異なりました。回を重ね議論が活発化した影響も考えられますが、仮想将来世代の仕組みにより、将来を自分事としてとらえ、より具体的に考察できている証と考えられます。
第3回のワークシートには、高温化や自然災害の頻発?激甚化により「外出が減り居住環境の価値が高まる」「集合住宅の中で生活が完結する」「熱帯農作物が主流になる」「和食文化が衰退」、春と秋が消滅し梅が咲かなくなることで「梅まつりがなくなり観光資源が減る」......などと記されていました。
「2030年までに実現すべき政策」についても、第2回では現世代の視点から、第4回では将来世代の視点からそれぞれ考察しました。気候変動の対策には、温暖化や海面上昇などによって生じる課題への調整を目指す「適応策」と、温室効果ガスの削減やエネルギー消費の抑制など気候変動の防止を目指す「緩和策」とがあります。特に、水害への適応策である流域治水、脱炭素?緩和策であるコンパクトシティをどう実現するかは、両回とも大きな論点になりました。
最終回では、2060年の社会像と2030年までに実現すべき施策について、議論結果を比較し、視点の違いによる生まれた差異を確認しました。将来世代に立った場合の議論や意思決定の特徴なども考察し、「中長期的な視点で、実現可能性に捕らわれない議論ができる」「住民を巻き込む施策を提案している」「継続的な施策が提案されやすい」「予算を気にせず計画策定ができる」などの意見が上がりました。
最終回にオンラインで参加した原教授はワークショップを振り返り「2060年の将来像と、2030年の政策と、同じことを考えたのに結果に違いがあったと思う。仮想将来世代という仕組み?方法を用いたことで、将来のことが自分事になり、長期的観点からより具体的な施策が考えられた可能性がある。将来世代の視点から現在を考察し、意思決定を行ったことで、近視性を抑えた判断に加えて、未来に向けて必要な施策はやっていくべきだという強い動機付けが生まれる」とフューチャー?デザインの効果を語りました。また、「研究者としてフューチャー?デザインの実践に色々関わってきたが、これだけ多様な課室から参加していただいたことは大きな特徴だと思う。都市計画やまちづくりの文脈での適応政策というテーマも初めてだったと思う。非常に素晴らしかった」と称えました。
田村教授はワークショップを「三つの壁を乗り越える機会になった」と総括しました。一つは言葉の壁です。環境関連の部署以外の職員にとっては馴染みが薄かったと考えられる『気候変動への適応と緩和』という言葉について、「具体的にイメージしていただいていた」。もう一つは、世代?時代の壁。「近視眼的な見方なのか、中長期的な見方なのか考えられた。最初より明らかにイメージが具体的になっていた」。最後は組織の壁。「皆さんの会話がすごく増えた。行政と大学の良いインターフェースにもなった」。参加職員へ、「色々なアイディアや施策につながるワークショップにしていただければ」と期待しました。また、小寺講師は「学術的にも非常に大きな貢献をしたワークショップだった」と話しました。
水戸市の小田木健治副市長は「今の課題をどうするか、どうしても近視眼的に考えてしまうところがあるが、施策をチェックする意味でも必要だろうと気付かせていただいた」と所感を述べました。
また、参加した職員に対し「今回は環境に関してワークショップを行ったが、他の施策にもやった方が良いと思う人?」と問いかけ、半数以上の手が挙がると、「私もそう思う」とうなずきました。「環境保全課が進めている地球温暖化の対策に関して、皆さん他の課が作ったものという意識があったと思うが、交通、農業、産業...と広い分野に関わっているという気付きがあったのではないか。子育てやデジタルの施策も全て、自分の分野にも関わっている、そういう視点も大切にしていただければ」と波及効果に期待しました。
(取材?構成:茨城大学広報?アウトリーチ支援室)