熱電変換技術の研究開発効率を100万倍に!
トポロジカル物質と高速スクリーニング技術で実現目指す
茨城大学応用理工学野/工学部附属グリーンデバイス教育研究センター副センタ―長の小峰啓史准教授が研究開発代表者を務め、東北大学 学際科学フロンティア研究所 千葉貴裕助教、埼玉大学大学院理工学研究科 長谷川靖洋准教授らとの協力によって取り組む研究開発プロジェクト「高速スクリーニングによる高効率トポロジカル熱電材料の創成」が、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業ALCA-Nextの2024年度新研究開発課題に採択されました。プロジェクトの期間は、2024年9月から最大で2031年3月までで、高効率熱電変換材料を従来の100万倍の効率で開発するアプローチを確立し、2040年までには現在の太陽電池に匹敵するエネルギー変換効率30%を実現することを目指します。
背景の課題―熱電変換のエネルギー変換効率を5%未満に留める3つのボトルネック
2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにするという地球規模の「カーボンニュートラル」の達成に向けて、大規模な発電設備を必要とせず、熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換する熱電変換技術が注目されています。
しかし、現状の熱電変換技術のエネルギー変換効率は5%未満ときわめて低く、安定的な電源としての実用はまだまだ現実的ではありません。
熱電変換技術のエネルギー変換効率が上がらず、大規模な社会実装に至っていない背景には、3つのボトルネックがあると、本プロジェクトでは捉えています。
一つ目は、具体的な材料開発指針の欠如です。これまで熱電変換の材料として、いくつもの熱電材料が提案されてきましたが、それらの材料は、大きな指針や戦略のもと計画的に探索されてきたものではありません。多様な熱電材料の研究者たちが、それぞれが専門とする材料の特性を示すための指標のひとつとして、その材料の熱電変換の性能を評価してきたに過ぎません。膨大な数の候補材料の中から、一定の指針をもってスクリーニングを行い、評価するようなアプローチが不可欠といえます。
ボトルネックの二つ目は、研究開発の効率性の低さです。材料の粉末から多様な条件に応じた評価試料を合成?成形し、その性能を調査するまでに、現在は1材料につき1年程度の調査期間を要しています。このままのペースでは社会実装の実現までにのべ24万年の時間を有することになります。
三つ目は、熱電物性の不確かさです。これまで多様な材料の研究者がそれぞれの方法で熱電変換の性能を評価してきましたが、実は同じ材料の間でも報告されたエネルギー変換効率の測定値に大きなばらつきが見られています。その背景には、各材料の性能改善を主眼とした定性的?相対的評価が従来は重視されてきた一方、熱電変換技術の向上という視点に立った定量的な検証への関心が不十分であったことなどがあると考えられます。
ボトルネック解消のアプローチ―トポロジカル熱電材料導入の戦略と新たな合成?計測システム
そこで本プロジェクトは、2つの独自のアプローチによって革新的な熱電材料研究システムを構築し、これらのボトルネックを解消して、材料開発期間の劇的な改善を図ります。
第一のアプローチは、トポロジカル熱電材料の導入を軸とした設計指針の確立です。これまでの材料においては、微細化などで熱伝導率を抑えると電気抵抗率が増大し、他方で増大し電気抵抗率を低減させると変換効率が下がるというトリレンマを抱えていました。
そこで本プロジェクトでは、熱流は材料内部を移動し、電子のキャリアは材料の表面を移動するという特性をもつトポロジカル物質と呼ばれる材料に注目しました。トポロジカル物質をナノ構造化すると、内部では熱伝導が抑制されるとともに、表面積が増えることで電気の抵抗も低減されます。これにより、熱と電気の独立制御が可能となり、熱電性能は飛躍的に大きくなります。
第二のアプローチは、評価試料の高速合成と高速計測の新たなシステムの構築です。高速合成については、4インチのウエハに複数の材料を同時に形成するコンビナトリアル薄膜合成という技術を活用し、探索速度の劇的な向上につながる合成材料の作製?実証を目指します。
また、高速計測については、高周波電流と直流電流に対する過渡応答の違いを利用するTDIS法を拡張した多点TDIS法を確立します。これにより、従来数日要していたエネルギー変換効率の計測時間を数分程度と劇的に短縮できると見込まれます。さらに,それらのデータをコンビナトリアル合成にフィードバックするという、試料合成と計測が一気通貫したシステムを構築します。
研究開発代表者を務める小峰啓史准教授のコメント
脱炭素社会の実現の上で、熱電変換技術は大きなポテンシャルを有していましたが、その実装に向けた研究開発の戦略はこれまで貧弱な状況だったといわざるを得ません。私たちは、熱電変換材料としてのトポロジカル物質の有用性について世界で初めて注目することで、熱電材料に関わるマテリアル研究戦略を提示します。そして、茨城大学の材料合成、東北大学の理論探索、埼玉大学の高速計測という技術を結集させ、これまで地球を暖め続けてきた家庭廃熱や工場廃熱などを再利用して膨大な再生可能エネルギーを生み出すという、ゲームチェンジを図ります。
プロジェクトの実施体制
主たる研究者 | 所属 | 理論Gr | 材料Gr | 計測Gr |
小峰 啓史 | 茨城大学 准教授(工学部?グリーンデバイス教育研究センター副センター長) | 研究開発代表者 | ||
千葉 貴裕 | 東北大学 助教(学際科学フロンティア研究所) | 代表 | ||
長谷川 靖洋 | 埼玉大学 准教授(大学院理工学研究科) | 代表 | ||
青野 友祐 | 茨城大学 教授(工学部?グリーンデバイス教育研究センター) | ● | ||
池田 輝之 | 茨城大学 教授(工学部?グリーンデバイス教育研究センター長) | ● | ||
鵜殿 治彦 | 茨城大学 教授 | ● | ||
坂根 駿也 | 茨城大学 助教 | ● | ● | |
井上 大 | 茨城大学 助教 | ● |
科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業ALCA-Next とは
カーボンニュートラルへの貢献という出口を明確に見据えつつ、個々の研究者の自由な発想に基づき、科学技術パラダイムを大きく転換するゲームチェンジングテクノロジー創出を目指す。世界的にも注目されている重要技術で、挑戦的であるが革新的な技術シーズに発展することが期待される研究を幅広く掘り起こし、技術的成熟度(TRL)を引き上げていくために、「スモールスタート」「ステージゲート評価による選択と集中」「ステージゲート評価後の加速」等を特徴とする。2024年度の提案募集は、2024年3月14日~5月8日に実施し、産官学各界より136件の応募があり、そのうち15件のプロジェクトが採択された。