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茨城大学発ベンチャー「(株)エンドファイト」が1.5億円の資金を調達
―取締役CTOを務める農?成澤才彦教授に聞く「変化」

20241031_endo-phyte_1.jpg 成澤才彦農学部教授が取締役CTOを務める茨城大学発ベンチャー「()エンドファイト」がこのほど、約1.5億円の資金調達を実施しました。「エンドファイト」とは植物内生菌のことで、根部エンドファイト(DSE)を接種した苗を使って成澤研究室が行った栽培試験からは、生育の促進や病害への耐性の付与、さらに花芽形成の促進といった効果が確認されています。同社はそうした苗の販売を起点に、食糧危機解決、土地の再生、農業における脱炭素の実現につながる多角的な事業を展開するスタートアップ企業として、昨年(2023年)4月に起業されました。
 それから1年3か月での大規模な資金調達。投資ファンドには大手建設会社なども参加するなど、エンドファイトへの注目の高まりがうかがえます。この間のさまざまな「変化」について、成澤教授に話を聞きました。スタートアップに興味のある茨城大学の構成員の参考にもなりそうです。

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――起業から1年3か月ほど経って1.5億円の資金を調達。起業したときのイメージと比べて、今の状況をどう受け止めていますか?

成澤「最初のイメージとは全然違う状況が広がっていますね。もともとはイチゴの花芽形成を誘導し、季節を問わず実をならせるということで苗やエンドファイト資材の販売をメインに考えていて、少なくとも数年の間はビジネス規模としてはそこまで大きくできないだろうと覚悟していたんです。ところが起業をしてさまざまなところで発信をしていると、反応は農業関係者に留まらず、たとえば建設業者のようなところからも大きなリアクションがあったんです。建設会社との事業となると予算規模と一桁も二桁も違ってきますからね。それが一番驚いている点です」

――建設業界の方々は、エンドファイトの技術にどのような関心をもっているのでしょうか。

成澤「具体的なことはまだ公開できませんが、たとえば都市開発やビル建設の緑化事業における植生への活用です。企業では環境やSDGsに貢献する取組みが重視されていて、建設業の場合、開発をする上では敷地面積の〇%以上植生にしなければならないなどの基準があるわけです。こうした植生の温暖化への対処性―すぐに枯れないようにするとか―の向上に私たちの技術を活用していきたいということなんです」

――当初の農家支援という目的に対し、実際には建設や開発の業界とのビジネスの規模が大きくなることについて、複雑な思いはないですか?

成澤「それは全然ありません。稼げるところではちゃんと稼ぐことで、お金のことを心配せずに思いきり研究ができます。その意味で、むしろやりたいこと、できることに、これまで以上に取り組めるようになりました。その中でも、農家への技術提供についても当然しっかりやっていくんだということは、(共同創業者であるCEOの)風岡(俊希)さんとも確認しています。その点は心配ないと思います」

20241031_endo-phyte_2.jpg 茨城大学発ベンチャー称号授与式での記念写真
一番左が風岡俊希CEO、2番目が成澤教授

――連携するパートナーの企業からの理解、信頼関係が鍵になりそうですね。

成澤「1年経って従業員が10人ぐらいの会社になりましたが、マンパワーとしてはまだ少なく、大きなプロジェクトを自分たちだけで完結できるような状況にはありません。ですから現状では、相手側にも研究グループがあって責任をもって一緒に研究に取り組んでいただけるような、そういう協力関係が築けるという点を重視しています」

――それによって研究テーマの幅が広がるということも考えられますね。

成澤「そのとおりです。連携先の企業とやりとりしていると、期待感のレベルの違いが見えてきたりしますが、そうしたことを率直に話ができるような関係が大事だとも思います。その上で、相手からテーマを投げかけられたら、とにかくまずは一緒に挑戦してみる。その中から研究サイドとしてのブレークスルーも既に生まれてきています」

――それは楽しみですね。大学の共同研究の枠組みよりも、ベンチャーの方がそうした成果が出やすい面があるということでしょうか?

成澤「大学の共同研究では、お互いに責任をもって積極的にリソースを出していきましょう、というフェーズになかなかいけないところがあると感じています。それからベンチャーは意志決定が早いんです。大学の場合、企業から夏に提案をもらったものの、契約が終わる頃には季節が終わってしまうということがありますが、ベンチャーだとすぐに始められます。植物を扱っている分、タイミングはとても大事ですからね」

――大学での教育?研究にあわせて、そうした経営や意思決定もしていくということで、大変ではないですか?

成澤「それはやっぱり大変です。連携する企業の方がラボを見たいとなれば、技術の責任者である私がその視察や調査の対応をしなければなりませんから、そうしたスケジュールのやりくりも必要です。もちろん研究員の方もいますし、ようやく本社を東京から阿見キャンパスのフードイノベーション棟内へと移す見通しが立ったので、体制整備も進めてきてはいます」

――起業に際して「学生に対しても、こういう仕事の作り方やキャリアもあるのだと、新しいモデルを示したかった」と話していましたが、学生たちの関心はいかがでしょうか?

成澤「まず、起業してある程度すぐにインターンシップを募集したのですが、全国の大学からびっくりするぐらいの応募をいただきました。そのうちのひとりを選んだのですが、とても優秀な方で、海外展開のプロジェクトの中には彼女が決めてきてくれたものもあります。こうした学生たちは、風岡さんのような起業家のそばで学んで、将来自分でもベンチャーをやってみたいという方が結構いるようです。
 研究室の学生たちに興味を持ってくれていて、それはとても嬉しいのですが、一方でやはりベンチャーですから、学生の就職先としてどこまで責任をもって薦められるか...。教員としては複雑なところも正直あります」

――海外展開の話も着々と進んでいます。

成澤「はい。特にインドネシアですね。私たちの研究室でかつて留学生として学んだ修了生たちがいて、そのネットワークの存在が大きいんです。彼らは向こうでもエンドファイトの研究を続けていて、ビジネスとして協働しやすい。茨城大学はAIMSなどを通じて東南アジアの大学との関係をずっと構築してきた歴史がありますから、ビジネスを海外で展開していく上で、修了生のネットワークは大きなアドバンテージとなりますし、それは当初からの戦略でもありました。先日風岡さんはベトナムも訪れています。(茨城大学が気候変動?開発プログラムの幹事校を担当している)日越大学との関係もきっと生きてくるのではないかと思っています」

(取材?構成:茨城大学広報?アウトリーチ支援室)