【レポート】土曜アカデミー
「超少子化社会?韓国で何が起こっているのか
―ジェンダー革命と家族構造の変化―」
茨城大学の土曜アカデミー。10月12日は、人文社会科学部の笹野美佐恵講師が「超少子化社会?韓国で何が起こっているのか―ジェンダー革命と家族構造の変化―」というテーマでレクチャーを行いました。
笹野講師の専門は家族社会学、人口学、ジェンダー研究です。ソウル大学大学校社会科学大学院で博士号を取得しました。
韓国といえば、少子化が加速度的に進んでおり、2023年の合計特殊出生率は0.72と、きわめて厳しい状況にあります。韓国、日本を含む東アジアの国?地域の少子化の背景には、保守的な家族観やジェンダー観があると考えられがちですが、笹野講師は「実際にはそんなに単純ではない。2010年以降の状況をしっかり見ていく必要があります」と話します。
笹野講師が注目するのは、急速な近代化が進められた韓国における、世代間における価値観の激しいギャップです。レクチャーでは、国際社会調査プログラム(ISSP)や日本の内閣府のデータの分析結果をもとに、韓国社会の独自性を指摘していきます。
家族観、ジェンダー観を尋ねる複数の項目の結果からは、韓国や日本が欧米に比べて保守的な価値観をもっているという傾向が確かに見られます。ところが韓国のデータを年代別に見てみると、「10歳の区切りごとに保守的な価値観がどんどん減っています。特に女性はものすごい減り方で、一番若い世代の価値観は完全なる男女平等といってもいいぐらいです」と指摘します。一方で日本の若い女性の中では、結婚を支持する層が増えているなど、保守化の動きも見られるということです。
また、子どもに関する価値観も特徴的で、韓国の若い世代では、子どもをもつことを「負担」と考える人の割合が突出して大きくなっています。特に女性たちは、子どもをもつことについてのあらゆる評価項目でネガティブな反応を示しており、「子どもはほしい」という回答が増えている日本とは反対になっています。
こうしたことから、笹野講師は、価値観の統計データについて「平均と偏差を注意深く見る必要がある。平均値で見ると世代間の大きな変化が消えてしまうのです」と指摘します。すべての世代の回答を平均したデータでは、韓国の方が日本よりも保守的に見えるのですが、若い世代だけを取り出してみると全く異なる様相が見えてくるのです。
「韓国では、母親とは全く違う人生を娘が選択しています。かつて朝鮮戦争後の貧しい時代は、男の子を優先的に学校へ行かせていましたが、今ではソウル大学のような有名大学の女性の学生の比率は、日本の東大や京大より遥かに高くなっています」(笹野講師)
働く女性の割合を比較すると、日本よりも韓国の方が低くなっています。しかしこれは、非正規雇用も含めた数の話。正規雇用の女性の割合に注目すると、韓国の方が日本より高くなります。「日本は非正規、パートタイムで働いている女性が多いということです。日本は男性を守り、女性を非正規雇用化して経済危機を乗り越えてきました」と笹野講師。「一方で、韓国は男性も女性も関係なく市場が流動化したのです。その結果、男性に頼るという選択は消え去って男性も女性も限られた椅子を取り合う状況になり、専門職や大企業への就職を目指す女性が増えたのです」。
しかしそのことをもって、韓国よりも少子化のスピードが緩やかな日本が、正しい選択をしたと捉えるべきではないでしょう。世界がジェンダー平等へと向かう中、日本はジェンダー平等に向けて「積極的には何もしなかった」と言われても仕方ありません。実際韓国においては、その後クォータ制を導入し、国会議員に占める女性の割合が増え、女性政策が一気に進んだそうです。MeToo運動も大きなうねりを見せました。
急激な近代化と市場の流動化によって、大きな世代間ギャップが生まれた韓国。それにより、女性の社会進出が日本とは比べ物にならないほど進んだ一方、男女間の分断も急速に進み、少子化も加速しています。他方、一見労働市場が安定的に推移したように見える日本では、若い世代の保守化が進み、国会議員における女性の割合もなかなか向上しません。いずれの社会にも課題はありますが、その分、お互いに学びあえることもたくさんあるのではないでしょうか。
(取材?構成:茨城大学広報?アウトリーチ支援室)