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【対談】茨城新聞?沼田社長×太田学長
-茨城大学 創立75周年?創基150周年を記念して

今年、茨城大学は創立75周年?創基150年を迎えました。創立時の茨城新聞をひもとくと、茨城に大学ができることに対する熱い期待が地域から寄せられていたことが分かります。それから75年。本学の歩みは、その期待に応えられているのでしょうか。往時の新聞記事を広げながら、沼田安広茨城新聞社長と太田寛行学長が対談しました。

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自立性の追求

    太田 75年前、茨城大学が誕生した1949(昭和24)年前後の茨城新聞を見ますと、茨城の地で自分たちの大学をいかにつくっていくのか、地域の文化や教育の振興、あるいは人材育成をどう進めていくのかということを、地域の方たちが一生懸命議論していた時代だったと感じますね。併せて、当時の後藤武男社長の論説を拝見すると、国からの地域の自律と大学の自律的な運営とを重ね合わせて捉えていたのもわかります。
    沼田 戦後の復興期という時代の中で国立大学ができるということですから、教育界、政財界をはじめ、県民のみなさんが歓迎したと思います。教育や研究による波及効果に大きな期待を持っていたのではないでしょうか。新聞社にとっても、大学の誕生は茨城県の発展に大きく貢献するものだと捉えており、その中で後藤社長も応援したのでしょう。
     この論説が出た翌年につくられた茨城新聞の社是には、「日本の正しい民主主義は中央からの指令や強権によって植えつけられるものではない」「茨城新聞は忽然と強大になった地方人民の一般意思を微塵の曇りもなく反映するのに勇敢でなければならない」と書かれています。当時の後藤社長は一貫してそういう考えを持っていたのだと思うのです。
    太田 それが、「国立大学」という形で一つに括られるようになり、個性がだんだん消えていってしまいました。その意味で、2004(平成16)年の国立大学法人化というのは、各大学の個性はどうあるべきかという考えに今一度転換すべき局面だったといえます。しかし、それからさらに20年が過ぎた今、私たちはどこまで個性や自律性を追求できているでしょうか。改めて75年前の思いに立ち返るべきだと思っています。

    19480519_茨城大学(広告なし版).png 1948(昭和23)年5月19日の茨城新聞。
    「大学創建の成否は県民の熱意如何にかかる」と茨城大学創立について論説(左上)を掲載

    環境研究の歴史

    太田 鈴木亰平初代学長は第1回の入学式で、「茨城の地は、日本歴史上、文教の地として異彩を放っている。時世は移り、世は変わったが、日本文化の中心地となるような立派な学府を充実してもらいたい」と呼びかけています。
     大学創立のこの年、水や湖の環境について調べる「涸沼研究室」が設けられました。民家の一室を借りていたその研究室が、涸沼実験所、さらに北浦湖畔の広域水圏環境科学教育研究センターへと大きくなっていき、現在では地球?地域環境共創機構(GLEC)という、地球レベルまで射程に置いた研究組織へと発展しています。鈴木初代学長の言っていた「立派な学府」の充実という目標をある程度達成できたのではないかと思っています。
    沼田 茨城大学の特色、強みは、やはり気候変動への対応の研究であり、その成果を社会に還元しているところですよね。国際会議やシンポジウムも積極的に開くなど、社会に貢献している点は素晴らしいなと思っています。
    太田 気候変動への適応策の研究という長年の強みに加えて、昨年は日立キャンパスにカーボンリサイクルエネルギー研究センター(CRERC)を設立し、緩和策の研究にも本格的に注力しています。また、エネルギーの問題も考えていかなければならないですから、東海サテライトキャンパスでは原子科学研究教育センター(RECAS)を今年立ち上げました。
     さらに今後、阿見キャンパスを拠点に、農地から出る温室効果ガスの抑制などに取り組むバイオテクノロジーのセンターも整備するところです。「総合気候変動科学」の世界的拠点の構築という目標を掲げ、海外、特に東南アジア地域の大学などとの連携を強化しています。

    不断の教育改革

    沼田 茨城大学のさまざまな改革の中でも、特に教育の改革に不断に取り組んでいる点がすごいなと私は思います。教育の質の保証のシステムを構築し、学生本位の、学生の個性を伸ばそうという教育に取り組まれていることに敬意を表します。
    太田 ありがとうございます。よく話をするのですが、2000年代の初めぐらいに日本の人口がピークになって、あとは減っていくという時代において、人の意識そのものが変わってきていますね。人口が急増した高度経済成長期はとにかくがむしゃらに働いて、景気もよくなるという時代でしたが、今は違います。学生たちを見ても、将来に関することがはっきり見えなくなっていて、「自分はどうなるのだろう」という将来への悩みを持っている者が半分以上いるのです。
     そうなると、大学の教育の仕方も、知識やスキルを伝えていくというだけではなく、彼?彼女たちがこれから先、どういう目標に向かって自己実現していくか、すなわち、「なりたい自分になる」ということをサポートすることが必要だと思っています。大学は、答えを与えるティーチングに留まらず、気付きを与えるコーチングも含めて関わらなければいけないということでしょう。その意味で、「スチューデントサクセス」という方針を打ち出し、環境整備を進めているところです。
    沼田 今年4月に開設された学部連係型の新たな教育組織「地域未来共創学環」では、企業や自治体で有給の実習に取り組むコーオプ教育を国立大学としては初めて必修化していますね。
    太田 「働きながら学ぶ」という大学の夜間主コースはこれまで大きな役割を果たしてきましたが、今は転換期を迎えています。
     そこで、私たちは「働きながら学ぶ」ということを発展させ、学生たちが働く現場へ行って、そこのスタッフと一緒に、給与をちゃんともらいながら働くというコーオプ教育を提案しました。その際、データサイエンスを身につけ、経済?経営も身につけないと現場で働くことが難しいだろうということで、それらを一体的に学ぶ地域未来共創学環を立ち上げたのです。
     1期生たちを見ると、社会問題を意識してそれをどう解決するかという視点を強く持っている学生が多いと感じます。学問分野ごとに学生を募ってきたときとは違う切り口の組織ができたのではないでしょうか。

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    先を見る若者たち

    沼田 最近、地域の企業の方々からは、人材確保が大きな課題になっているということをよく聞きます。茨城大学の卒業生にも地元で働いてもらいたいという気持ちを持っているようですが、学生は学生で、それぞれ自分たちの希望がありますから、いろいろな分野で働いていただきたい。
     ですから、我々企業の側も、学生が就職したいと思えるような魅力ある企業になっていかないといけないと感じています。後藤元社長も言っていたように、誰かにお任せするのではなく、自分たちで何かするということが必要なのかなということを感じています。
    太田 3年前に始めたアントレプレナーシップ教育プログラムの履修生の報告会を聞いて、学生から学んだことがあります。私たちは、学生が起業家精神をもって羽ばたいてほしいという一念だけでこのプログラムを作ったのですが、その学生から「このプログラムは、若者がチャレンジしやすい社会を実現するためにつくっているのですよね」と確認されてしまったのです。
     ああ、われわれは大きなビジョンを忘れ、ひとつのプログラムの運営に固執していたんだなと気付かされました。これこそが若い人たちの感性だと思うのです。提供しているプログラムについて、我々が思っている以上に、その先のビジョンを先読みできてしまう。その点、大学の教員として修行が足りないのかもしれません。
     これも学生に教えられたことですが、大学は「こんなことがしたい」と言える場所であり、また、ゴールを共有できる仲間と励みあいながら学生が育つ場でなければなりません。そのためにどういう風に教育なり研究の材料を提供していけるか。主人公は学生たちであるということを絶対に忘れない大学でありたいです。

    9911.jpg 太田寛行学長(右)と沼田安広茨城新聞社長


    ※こちらの記事は、2024年10月30日の茨城新聞に掲載されました。